デフレ思考が日本経済を歪める—2%目標と白川日銀批判
インフレ目標2%の理論的根拠、NAIRUの考え方、白川日銀時代の金融政策、円高とデフレの関係、人口減少デフレ論の問題点を検証。
消費増税と金融緩和の関係を通じて、日本経済を巡る政策論争の核心を論じる。
2019-01-09
こういうデフレ大好き人間が、財務省や日経にもたくさんいて、日本経済のウソを拡散している。
それを本書であきらかにしたい。
以下は前章の続きである。
インフレ目標2%の理由は簡単だ。
最低の失業率を目指しても、ある下限(経済学ではNAIRU、インフレを加速しない失業率という)以下にはならずに、インフレ率ばかり高くなってしまう。
そうした下限の失業率(これは日本では2%台半ばから前半)を達成するために最小のインフレ率が2%程度になっているからだ。
この意味で、インフレ目標は、中央銀行が失業率を下げたいために金融緩和をしすぎないような歯止め、逆にいえば、インフレ目標までは金融緩和が容認されるともいえる。
このような基本中の基本がわからないで、日銀総裁をやるから、その成果は散々であった。
雇用の観点から、白川氏の日銀総裁時代を評価すると、失業率について就任時08年4月は3.9%だったが、退任時の13年3月は4.1%であり、点数をつけられない。
リーマン・ショックや東日本大震災があったのは不運であったが、その対応でも落第である。
リーマン・ショック後の超円高に関するところに、それが端的に表れている。
当時各国中央銀行は失業率の上昇をおそれて大幅な金融緩和を行ったが、日銀はやらなかった。
その結果、円が各国通貨に比べて相対的に少なくなったので、その相対希少性から猛烈な円高になった。
これで苦しんだ企業は多かった。
しかし、その無策を反省するでもなく、「実質為替レートでみたら大した円高でないので、それを言うと叩かれるから放置した」という趣旨の記述が著作中にある。
逆にいえば、名目的な円高は大したことないのになぜ大騒ぎするのかという彼の告白である。
これには驚いた。
実質だけを見てデフレで実質所得が高くなるからいいだろうという、典型的な「デフレ思考」である。
その当時円高に苦しんだ人は、この白川氏の本音を聞いてどう思うだろうか。
デフレも円高も、円が、それぞれモノ、他国の通貨量に対して相対的な過小状況から引き起こされる現象である。
相対的に過小なので、通貨の価値が高くなり、その裏腹にモノの価値が下がりデフレになり、円の価値が高くなって円高というわけだ。
それが不味いのは雇用が失われるからだが、この人には金融政策で雇用を確保できるという考えがすっぽり抜けているので、デフレや円高が悪いものと思っていなかったのだろう。
このほかにも、人口減少デフレ原因論を長々と書いていたのにはあきれた。
たしかに5年ほど前には一世を風靡した論だ。
が、いまでも人口減少は続いているにもかかわらず、デフレは脱却しつつあるので、もう否定されているものだ。
白川日銀時代、白川氏は人口減少デフレ論を展開したが失敗した経緯があった。
12年5月30日、日銀の国際シンポジウムでの講演で、白川氏は人口減少デフレを示したつもりだった。
しかし、これは国別データの取り方を恣意的にしたもので捏造レベルの問題だったので、筆者は月刊誌『FACTA』(2012年7月号)で恣意的な方法を含めて批判した。
この日銀総裁講演や図は、さすがに今回の白川本にはでていない。
しかし、白川本では、「日本銀行は、デフレは低成長の原因ではなく、結果であると反論した。
この点で興味深いのは先進国における(人口1人当たりの)潜在成長率と予想物価上昇率の関係である(注8)。
これを見ると、両者の間には明確な正の相関関係が観察される(図1015)。」(341ページ)と書かれている。
そこで、注8で引用されているものを見ると、「米欧英では、中長期の予想インフレ率と潜在成長率が無相関」となっており、白川本の記述は間違っている。
要するに、まだ懲りずに、人口減少デフレ論を展開しているが、その論拠はデタラメだったわけだ。
また、白川氏は、日銀の所管外である日本財政について、危機であると本当に信じ込んでいる。
これも白川本に書かれているが、筆者からみれば信じがたい。
本書で詳しく述べるが、いまではIMFでもそうではないと言い始めている。
いずれにしても、白川氏はまぎれもない消費増税積極論者である。
冒頭に述べたように、2%のインフレ目標が達成できなかったのは消費増税が原因である。
さらに、白川氏が消費増税賛成派なので、もし白川氏がいまも日銀総裁だったら、さらに酷いことになっていただろう。
というのは、金融政策で2%を達成できないというくらいで金融緩和は手抜きだろうから、当然2%には届かず、その上、消費増税なので、デフレに逆戻りだっただろう。
こうした現実を見ると、白川氏はまさにデフレ大好き人間なのだと妙に納得してしまう。
この人が日銀総裁でなくて本当に良かった。
こういうデフレ大好き人間が、財務省や日経にもたくさんいて、日本経済のウソを拡散している。
それを本書であきらかにしたい。
2018年11月。
高橋洋一。