トランプの対中戦略の核心。小麦と豚肉が示す中国の最大の弱点。
月刊WiLL掲載の加地伸行氏の巻頭コラムをもとに、トランプ政権の対中戦略の本質を読み解く論考。
米中貿易不均衡、大豆関税、中国の食料事情、小麦輸入依存、豚肉価格の上昇リスクを通して、中国共産党政権が恐れる真のカードが何かを考察する。
中国が農業大国ではなく、食料供給の不安が政権の不安定化に直結する構造を指摘し、食と政治と国際戦略の関係を浮き彫りにする文章である。
2019-03-27。
中国人は豚肉が好きでほぼ常食。
中国北方の主食である小麦とともに、両者が十分に人々に行きわたらないとなればどうなるか。
人間、食が十分でないときは、必ず実力行使する。
月刊誌WiLL今月号を購読している人達は、皆、これぞ本物と唸ったはずである。
以下は巻頭を飾る加地伸行氏の連載コラムからである。
文中強調は私。
老生、英語力がない。
だから、例えばアメリカについて何かを知ろうと思えば、日本メディアの情報に頼るほかない。
そのため、日本メディア情報に瞞されたことしばしば。
けれども、それは己れの浅はかさの罪。
要は、他国のことについては、よく分らないという気持を持てということであろう。
しかし、英語力がなくアメリカ情報がなくとも、中国に対するトランプ大統領の戦略、その胸中に秘めたカードが何かを見ることができる。
なぜなら、老生、中国について若干の知識があるからだ。
そこでそのカードについてお話してみよう。
経済のこと自体、具体的には貿易のこと自体について、老生、もとより何も分らない。
しかし、トランプが大きな声で言っていることを聞くと、その本質はすぐ分った。
まずは貿易不均衡。
中国との関係で言えば、中国は黒字、アメリカは赤字。
その貿易不均衡を逆手に取って、中国政権の崩壊への脅しを掛けるという戦略である。
その戦術として、自国の貿易赤字を減らすため、輸入品に対して関税を多く掛けることを中国にまず通告した。
ただし、三段階にして変えてゆく方針。
顧みれば百五十年前、明治政府は貿易不均衡に苦しんだ。
ふつう、自国の貿易赤字を正すためには、外国からの安い輸入品に対して関税を掛けて価格を自国製品と同一にして自国の経済を守る。
しかし、幕末に結んだ欧米列強との条約には、自主的に関税を掛ける権利がなかった。
そこでそれを得ようとして条約改正へと苦労した。
後に改正に成功するが。
しかし現代では、輸入品の価格が不当に安ければ関税を掛けて自国の生産商品を守るのが常套手段となっている。
さて話をもどすと、米中の貿易不均衡問題において、アメリカが対中制裁関税を発動したところ、中国は対抗してアメリカから輸入している大豆に25%の関税を課した。
と書くと、多くの人は驚く。
中国は大豆を輸入しているのか、と。
なぜなら中国は農業国と誤解しているからである。
世界の農耕可能地を100%とすると、中国はわずか7%なのである。
農産物を輸入せざるを得ないのだ。
中国では大豆で食用油を採り、その大豆粕を豚の飼料としている。
アメリカから輸入のこの豚の餌を自分で25%上げたことになる。
当然、国内の豚の価格が上がる。
もっとも、輸入大豆の53%がブラジルから、34%がアメリカからであるから、取り敢えずはブラジル産大豆で凌げるが、その先は見えない。
中国は、関税によってトランプの支持基盤であるアメリカ農家が収入減となり、トランプ支持が揺らぐという戦術であろうが、なんといま中国は、トランプの諸要求に対して素直に従っている。
これはなぜか。
答は明らかである。
中国は、トランプが対抗策として、次に切ってくるカードが恐くて恐くてたまらないからである。
10年以上も前のデータであるが、中国は主食の小麦を大量に輸入してきている。
農業国ではないからである。
アメリカ・カナダ・オーストラリア三国からの小麦輸入量は三千万トン。
一億人の年間消費量は一千万トンであるから、三億人分の小麦をずっと輸入し続けている。
この小麦を主食とする中国北方にとっては、小麦の輸入困難は死活問題となる。
中国人は豚肉が好きでほぼ常食。
中国北方の主食である小麦とともに、両者が十分に人々に行きわたらないとなればどうなるか。
人間、食が十分でないときは、必ず実力行使する。
となると、トランプの胸中に秘めたカードすなわち中国への小麦輸出量の縮小が、中国は恐くて恐くてならない。
そこで、貿易問題を大豆問題あたりで終了をと中国政府は願っていると見る。
古人曰く、未だ乱れざる時に、治を制し、未だ危ふからざるに、川を安んず、と。