スリランカの闇と宗教の醜悪。高山正之が描く分割統治とテロの連鎖。

2019年5月9日発信。
週刊新潮掲載の高山正之連載コラムを通じて、英国の分割統治がインドとスリランカに残した深い傷痕、宗教対立の構造、そしてテロと国家の冷酷な対応を描き出す論考。
スリランカ社会の暗部を通して、宗教と権力の醜さを鋭く抉る一篇。

2019-05-09
そんな折も折インド情報機関からイスラム過激派のテロ情報が届いた。情報は詳細で、主犯が誰でどのキリスト教会が標的かも伝えていた。しかし当局は動かなかった。テロは情報通り決行され250人が死んだ
以下は今週号の週刊新潮に掲載されている高山正之の連載コラムからである。
彼が戦後の世界で唯一無二のジャーナリストである事を証明している見事な論文である。
スリランカの闇
英国人は2000人で4億のインド人を支配した。
ただその2000人はそこらの英国人とは違う。
奸智と冷酷さが試されるインド高等文官(ICS)試験をパスしたつわもの達だ。
英国人はインド人を彼らの文化で分断する分割統治を採った。
ヒンズーとイスラムを喧嘩させたのもその一つで、最後は国を分つ争いにまで発展した。
その間、彼らは第三の宗教シーク教徒を重用した。
イスラムやヒンズーが暴れるとシーク教徒のライフル部隊が出て始末した。
それでもヒンズーは大所帯だった。
で、また奸智を働かせて彼らの身分制度力―ストを煽った。
ヒンズーは団結を失った。
かつてニューデリーの大通りを車で走ったことがある。
赤信号で停まると運転手が互いに顔を見合わせ、青信号になるとカーストの高い順に出ていった。
インド人はそこまで仕込まれた。
カーストには人種も絡む。
主流のアーリア系に対し南のドラヴィダ系タミール人は最下層のスードラと規定されている。
英国はまたウルドゥー語など地方語をわざと奨励し、インド人が共通の言葉を持たないように図った。
日本はインドネシア人に共通語を与え、差別を排する教育をした。
その真逆が分割統治になる。
英領だったスリランカもやはり分割統治された。
ここはアーリア系とドラヴィダ人が混血したシンハラ人の国と言われ、彼らは独自に仏教を信仰した。
そういう単一民族単一宗教の国は結構、分割統治するのが難しい。
で、英国はセイロン茶のプランテーションを作るとわざわざインドから大量のタミール人、つまりドラヴィダ人を入れた。
シンハラ人にも半分同じ血が流れる。
それが問題だった。
例えばハイチ。
アフリカの黒人奴隷を入れた旧仏領植民地はみな同じに見えるが白人との混血児もかなり混じる。
小さな差は大きな憎しみを生む。
ハイチの歴史はこの二派の血で血を洗う抗争で織りなされている。
英国はこの近親憎悪をスリランカ支配に使った。
シンハラとタミールは憎み合い、そのまま先の戦争のあと独立した。
初代首相はバンダラナイケと言った。
同国代表はサンフランシスコ講和会議の折に「日本の掲げた理想に、独立を望むアジアの人々が共感したことを忘れない」と語り、日本への賠償請求も放棄した人だ。
そんな立派を言っても国内政治は酷かった。
彼はシンハラ語を公用語にし、仏教をほぼ国教とし、タミール人が公職に就くのまで禁じた。
これに国民の2割を占めるタミール人が怒り、半世紀に及ぶ内戦が始まった。
この間、シンハラ政権はイスラム教徒を国の実務につけた。
英国がインドでシーク教徒を使ったのと同じ発想だ。
この国にはキリスト教徒も若干いて多くは元ヒンズー教徒のタミール人だ。
彼らはヒンズーを信じ、それでスードラというカーストに縛られてきた。
それならいっそ改宗し自由を得たいと望んだ人たちだ。
インドに約2800万人いるキリスト教徒もほとんどが下位カーストか不可触賎民からの改宗者だ。
そんなキリスト教徒がスリランカには140万人いるが、イスラム教徒は海外からの流入も含めて今や約200万人にも達し彼らを凌ぐ勢力となった。
対タミール人内戦を制したシンハラ政権は今、この勝手に増殖したイスラムを目の敵にしている。
そんな折も折インド情報機関からイスラム過激派のテロ情報が届いた。
情報は詳細で、主犯が誰でどのキリスト教会が標的かも伝えていた。
しかし当局は動かなかった。
テロは情報通り決行され250人が死んだ。
結果、イスラム系住民は世間の激しい非難と暴力に晒され、身の危険を感じて国外に逃げ出している。
政権はマイナーなキリスト教徒の死を悼んで見せるが、その顔は笑っているように見える。
宗教とはかくも醜い。

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