本物に触れた時だけ、心の日曜日は訪れる。

高校三年で露わになった家庭の実態、東京での赤貧の日々、煙草の記憶、そして上野の文化会館で聴いた名演。
長い歳月を経て、2020年の大晦日に村田夏帆とひまりという二人の超弩級の天才の出現を知った、その人生の軌跡を記した回想である。

私は、それを苦労とは思っていなかった。
それはそうだろう。
高校3年になった途端に、突然、露わになった自分の家庭の実態。
自分で生きてゆくしかない人間にとって、それは常態であって苦労ではないからだ。
つまり、生計の手段は自分で稼ぐ。
東京のユースホステルを転々としていた日々、ごく、短期間だったが、有楽町のパチンコ店で、毎日、万単位のお金を稼いだ事もあった。
私とは全く違う意味で、家庭的な問題を抱えていた親しいクラスメートがいた。
大変な資産家の息子で早稲田に入学した同級生が住んでいた市ヶ谷の高級賃貸マンションに、ごく短い期間だが、彼と二人で転がり込んでいた。
彼は、大変なパチンコ上手で、毎回、高価な外国たばこを山ほど取得して帰って来た。
当時のパチンコは玉を手で入れて打つ態様だったから、不器用な私には到底不可能な技だった。
彼らは、時々、その煙草を吸っていた。
私は、煙草を吸いたいとは思った事が無く、煙草については、父親に頼まれて、近所のタバコ屋に確かしんせいと言う名の煙草を買いに行って目にしていただけだった…ゴールデンバット等。
或る日、私が留守番の様に一人でいた時、ふと、吸ってみた。
これが意外な事に美味しかった。
2011年生死に関わる大病を患って8か月の長期入院。
以来、当然ながら、スパッと煙草を止めた。
「よう、あんなものを吸っていたなぁ…」
元々与えられていた寿命に戻った様に思う。
「煙草は心の日曜日」…当時の公社の宣伝文句である…とんでもない!
あんなものは「心の日曜日」にはならない。
心の日曜日に成るのは、知性が、本物に触れた時…例えば大谷翔平の態様を観戦する。
毎日の時間で言えば、知性の言葉=真実の言葉=真実に触れた時だけである。
上記のクラスメートの事では、苦い思い出がある。
生計費の為にと、二人で、首都圏に住んでいる彼の親戚に、山ほどの高級外国たばこを抱えて、売りに行った。
彼は手厳しく怒られた(私も同様である)
日本を代表する進学校に進んだ自慢の親戚が、よりによって、煙草を売りに来るとは!
私達は首を垂れて無言で帰宅した。
この時の事は、正に、苦労そのものだっただろう。
そんな赤貧の時代にも、私は、上野の文化会館に中村紘子のチャイコフスキー協奏曲第1番や、当時驚異的なテクニックで一世を風靡した黒人ピアニス、アンドレ・ワッツの来日公演は、聴きに行った。
大阪を終の棲家として暮らし出してからは、様々な名ピアニスト達の来日公演は欠かさず聴きに行った。
ミケランジェリを聴きに京都国際会館ホールに行った夜の事は既述の通り。
それから、長い事、私はクラシックを聴かなくなっていた。
コンサートには、ボブディラン、ボブ・マーリィの来日初公演等には行ったが。
ボブ・マーリィのフェスティバルホールでの公演は、伝説的なコンサートだった。
私は、この時、幸いにも最高の席で聴いていた。
私の親友が招聘元の大手音楽プロダクションの担当者と知人だったからである。
実に、長い間、私はクラシック音楽に疎遠だった。
年末年始は、いつもハワイに行っていて日本にはいなかった。
時差ボケが酷くなった事と、深夜便に疲れて、ハワイ行は止めた。
2020年末、大晦日に紅白歌合戦を視聴していた。
我が家のスピーカーで、NHKホールで開催されるのだから音響は良いはずだとして。
しかし、途中で、「こんものは観ていられない」から、YouTubeを視聴しだした。
驚愕!
日本に、村田夏帆、ひまり、という年少の超弩級の天才が二人も…年齢差4歳で…誕生していた事を知ったからである。


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