高山正之が読み解くイラン宗教政権とソレイマニ抹殺の意味

2020年1月16日発信。
筆者は、週刊新潮掲載の高山正之連載コラムを紹介し、イランの歴史、ゾロアスター教、シーア派、イスラム革命、革命防衛隊の台頭を通じて、ソレイマニ司令官が中東支配の直前にあった構図を論じる。
トランプ大統領によるソレイマニ抹殺は、イランを宗教狂信体制に委ねた米国の過去への償いでもあり、イラン国民が望ましい政府を持つための一歩であると位置づける。

2020-01-16
大統領を凌ぐ力を持つソレイマニは今やシーア派の拠点と化したバグダッドに居座り、タリバン、アルカイダとも連携して中東を掌握する直前にあった。
以下は本日発売された週刊新潮の掉尾を飾る高山正之の連載コラムからである。
今回の論説も彼が戦後の世界で唯一無二のジャーナリストであることを実証している。
似非イスラム
アーリア系イラン人は3000年前から中東に君臨し、周辺のアラブ人などを支配してきた。
彼らは善悪二神論に立つゾロアスター教を信仰した。
まともでかつ劇的な教義で、確かインドのネルーもその信者だった。
しかし世は無常だ。
7世紀、伝統ある帝国がアラブ人に滅ぼされ、あまつさえ彼らの信ずるイスラム教への改宗を強いられた。
ムハンマドが開いたこの宗教はユダヤ教を下敷きにしていて、コーランにはムハンマドが天上界に上りアダムやイエスに会う場面も描かれている。
そのユダヤ教にも実は下敷きがあった。
それがゾロアスター教で、最後の審判とか処女懐胎とかは聖典アベスタからの引用だった。
だからイラン人はコーランを見て「なんだ、ソロアスター教の孫引きじゃないか」と思ったものだ。
で、改宗の際イラン人が受け入れやすいように教義を変え、ムハンマドの孫にぺルシャの王女シャハルバヌーが嫁いだ伝説も入れた。
これがイスラムに似て非なるシーア派になる。
戒律も緩やかで、11世紀の詩人オマール・ハイアムは禁忌の酒を飲み美女と戯れる詩を詠んでもいる。
ただ元々が見下してきたアラブ人の宗教だ。
20世紀、パーレビー皇帝の時代にはイスラムの権威は失せ、坊主は葬式で食うだけの存在でしかなかった。
日本の坊主と変わらなかった。
ところがパーレビーを警戒した米国がホメイニ師を支援し、まさかのイスラム革命が成就した。
坊主が支配者に成り上がった。
途端に酒も生ハムも禁忌とされ、女はチャドルを纏わされた。
背けば鞭打ちが待っていた。
そのころ、こちらは特派員としてテヘランに行った。
女の子は可愛かったが不倫は死刑と決まっていた。
その禁を犯した者の公開処刑が木曜日の朝、そこらの街角で行われていた。
人々が恐怖で顔を引きつらせているとき、坊主だけが笑っていた。
政治経済の実権を握った彼らはみな生臭坊主になった。
医薬品を仕切った坊主は安物のジェネリックを入れて差額を懐にした。
患者がバタバタ死んでいった。
人々は宗教政権にうんざりだったが、坊主にはセパ・パスダラン(革命防衛隊)がついていた。
彼らはアッラーの教えに従わない者を躊躇いなく殺した。
最初の標的はイラン正規軍で、クーデターをやりそうな佐官以上の将校をみな殺しにした。
次に王党派も左翼政党も粛清した。
殺すべき政敵が居なくなると不倫をした女を引きずり出して石をぶつけて殺した。
テレビはその処刑を生で流した。
人々は恐怖で口を噤んだ。
坊主たちの腐敗が進むとパスダランは彼らも追放し始め、代わって自分たちが要職に就いた。
イランの今は最高指導者のハメネイ師と大統領のロウハ二師の二人の坊主がトップを占めるが、その下の閣僚の半分はパスダラン上がりが占めている。
坊主の影は薄くなり、今はパスダランの恐怖政権がイランを仕切っている。
その力関係を先日のニューヨーク・タイムズが伝えた。
トランプがロウハニに米軍への干渉について質したとき「彼に代わって答えたのがパスダラン司令官ソレイマニだった」と。
大統領を凌ぐ力を持つソレイマニは今やシーア派の拠点と化したバグダッドに居座り、タリバン、アルカイダとも連携して中東を掌握する直前にあった。
トランプは米国がかつてイランを宗教狂信者に委ねたことを知っている。
その償いもあって先日、司令官の抹殺を命じ、実行させた。
次はテヘランからバグダッド、レバノンに伸びるシーア派の枢軸ライン破壊に着手するはずだ。
ソレイマニの死を知ったイランの多くの民は時代錯誤の宗教政権の崩壊が始まると喜んだ。
「国民は望ましい政府を持つ権利がある」とは大西洋憲章の一節だ。
イランの民はやっとまともな政権作りの緒に就いた。
心から祝福したい。

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