日本は…基本的に自力で自国防衛をなし遂げ、米国をも支え、協力する姿を全世界に示すことだ
2021/12/6
以下は今日の産経新聞のフロントページに掲載された櫻井よしこさんの定期連載コラムからである。
本論文も彼女が最澄が定義した国宝、至上の国宝である事を証明している。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。
見出し以外の文中強調は私。
希望的平和志向脱皮を
米中の価値観をめぐる対立の顕在化で両国間の妥協の余地が狭まりつつある。
米外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」11・12月号でシカゴ大学のジョン・ミアシャイマ―教授は米国が長年、中国の現実から目をそらしてきた結果、両国間紛争は回避不可能な状況に達し、人類は核戦争へのエスカレーションの危機にあると、警告した。
米中対立はそれほど深刻である。
決して起こしてはならない核戦争を防ぐため、私たちはかつてないほどの決意で現実を見詰め、責任ある思考を巡らせなければならない。
核戦争の危険を避けるには、米国が恐ろしいほどの軍事力を東アジアに配備し中国を抑止することだとミアシャイマー氏は書いた。
岸田文雄首相の持論「核なき世界を目指す」という漠とした考えでは日本および周辺諸国を守り切ることはできない。
ではこの危機をどう乗り越えるか。
米国は明確な戦略変更を打ち出した。
そのひとつの現象が12月9日、10日に開催する民主主義サミットであろう。
約110の国・地域を招き、2日間のオンライン会議で、①各国が自国の民主主義の実態を確認し、②1年後、足らざるところを埋めて共同で対処するというものだ。
1国だけで中国の脅威には向き合えない、同盟諸国や価値観を同じくする国々との連携が必要だと、米国は繰り返す。
頼りないとはいえ実践例のひとつがこれであろう。
バイデン米政権は米軍配備の指針「世界規模での軍事態勢見直し(GPR)」で、中国を念頭にインド・太平洋地域に重心を移す方針を示したが、部隊の大規模配置転換は見送った。
米国の小幅な戦略見直しはここでも諸国の落胆を招いた。
中国の脅威をかわすのに米国に頼りつつも世界全体が積極的に協力すべきところに来ているのである。
中国は米国の民主主義サミットに対抗して12月4日、「中国の民主」を発表した。
同報告を貫くのは「全過程人民民主」という中国流民主主義の正当性を強調する強引な主張だ。
24㌻にわたる主張は、習近平氏が中国共産党のトップとなった「2012年以降、中国は素躋らしい成果」をおさめてきたという自画自賛から始まる。
これはおよそ全ての文書で枕詞として使われる習氏への個人崇拝促進の表現だ。
習氏による絶対専制独裁体制は民主とは程遠いが、中国は言う。
「中国の民主」は人民が国家の主だと。
人民には投票権も立候補権もあり、政府批判の権利、言論、報道、集会、結社、デモ、信教の自由もあると。
それにしては、香港の自由な言論空間は、あっという間に消えた。香港の選挙は形だけとなった。
自由も民主的選挙も既得権益の塊である一党独裁の中国共産党には絶対に受け入れられないものだ。
中国は民主の旗を立てながら、その実、非民主的な力の行使に何の抵抗も感じていない。
その統治の方式は中国が他国に勢力を伸ばすとき、被統治国にも必ず適用されるはずだ。
そのことを岸田文雄政権は肝に銘じて対中外交を展開しなければならない。
甘い考えで国と国民を守れると思ってはならない。
恐ろしいほどの野心を抱く習氏だが、一方で国際社会の批判におののいているのか。
「中国の民主」に続いて翌5日には「米国の民主状況」を発表させ、米国の民主主義を切って捨ててみせた。
米国社会の人種差別、富の偏在、大資本によるメディア支配、名目だけの言論の自由などと弊害をあげつらっている。
中国の指摘は一面の真実を突くものではあるが、中国にも米国と同じか、それ以上に深刻な同様の問題があることを彼らは認めない。
米中両国の価値観の戦いの中でわが国が人類社会に対して担う責任は重い。
第1に、日本は世界第3の経済大国として、基本的に自力で自国防衛をなし遂げ、米国をも支え、協力する姿を全世界に示すことだ。
たとえば中国が台湾、尖閣、沖縄を奪取するための基本戦略と見なす第1列島線に米国の中距離ミサイルではなく、わが国の技術で製浩する中距離ミサイルを配備することだろう。
第2に、米国とも異なり、無論中国とは正反対の日本の文化と価値観に基づく国家観を打ち出すことだ。
中国に位負けせずに言うべきことを言うことだ。
たとえば北京五輪についてバイデン米大統領は11月18日、「外交的ボイコットを検討中」と語った。
英国を含む欧州諸国も同様だ。
わが国こそ真っ先にそれを言わなければならない。
せっかく、国際人権問題担当首相補佐官を設け、中谷元・元防衛相を起用した。
首相は中谷氏に明確な発信を指示すべきだろう。
中谷氏は補佐官就任と同時に中国の人権問題に物言わぬ人となったが、物言わぬのであれば更迭すべきだ。
台湾問題に関する林芳正外相の沈黙も国民のみならず、国際社会の疑惑を深めている。
対照的に中国が林氏擁護に熱心だ。
そもそも中国は日本の政治家をどのように分析しているか。
中国共産党機関紙、人民日報系の「環球時報」の編集長は9月5日、「日本の政治家はせいぜい中国に対する口先攻撃で満足する人々だ。安全保障における攻撃的な行動を取る勇気は絶対にないだろう」とSNSに投稿した。
日本の政治家をこのようにおとしめる一方で、彼らは林氏を称賛する。
林氏が外相就任時に日中友好議員連盟の会長を辞した件について環球時報は11月19日、黒竜江杳社会科学院北東アジア研究所の箟志剛(たん・しごう)所長の論文を載せた。箟氏は、林氏の日中議連会長辞任は「一人を殺して大勢の見せしめにしようとするもの」だと批判し、「(林氏ら)知中派は日本の保守的思考を食い止める清流勢力」だと持ち上げた。
中国に物言わぬ「知中派」は何よりも中国の国益につながると見ているのであろう。
今はあらゆる意味で戦うときだ。
「台湾有事は日本有事であり日米同盟の有事である」(安倍晋三元首相)。
「中国が台湾に侵攻すれば多くの人々にとって恐ろしい結果になる。米国は断固として台湾に関与する」(ブリンケン米国務長官)。
両氏のように明確なメッセージを発信して中国に誤解させないことが肝要だ。
自民党公約を見れば、首相は宏池会の希望的観測に基づく平和志向からの脱皮を意図しているのだろう。
ならば迅速に行動で示すべきだ。