涙は、彼女の目じりから滝の様に流れ続けていた――病院の待合室で見た「武士の妻」
2012/3/23…涙は、彼女の目じりから滝の様に流れ続けていたのだった。
月曜日に、病院の待合室で、私が見ていた光景の中から。
私は、最初に座っていた長椅子から、別の空いていた長椅子に移った。
程なくして、目の前を中年の御夫婦が通り過ぎて、隣の長椅子に座った。
御主人は、長椅子の角に三角座りの様な形で、私の方に面していたが、表情は本当に虚ろそのものだった。
奥さんは真っ直ぐ前を向いて座っていた。
彼女は私と同じようにマスクをしていた。
何事か考え事をしていた私が、視線を向け直した時だった。
奥さんの左目じりから涙が流れていたのである。
本当は、この場で号泣したいのだろうが、それを、必死でこらえているから頬は愈々紅潮して来るのだった。
涙は、次から次と止めどなく、左の目じりから流れ落ちて来る。
その理由は、私には聞かなくても分かるのである。
お医者さんに…旦那さんと一緒に別室に呼ばれて、御主人の病名の宣告と説明を受けたのである。
入院しなければならないことやetc.
勿論、その病気が生死に関わる大病である事は言うまでもない。
隣国、韓国の御婦人がたなら、そこが公共の場であることかどうかなどは一切関係が無く、大音声で号泣しているところだろうな、と私は、これを書いていて思った。
「武士(もののふ)の妻」の伝統は、今でも、日本の、ごく普通の庶民の中にも生きているのである。
様々な無念さや元には戻せない現実の酷さ、その様な思いに捉われて、微動だにしないが、頬の紅潮だけは隠しようがなく、
涙は、彼女の目じりから滝の様に流れ続けていたのだった。