福井義高「外国人労働者増と日本のあり方」――社会秩序を守る国家の役割
2023-11-07
以下は、2023-11-07、産経新聞に掲載された福井義高 青山学院大学教授の論文からである。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。
外国人労働者増と日本のあり方
国家がまずなすべき仕事
外国からめ夥住者・観光客が増え、各地で軋轢が生じている。
本紙も、クルド人が起こすさまざまな問題を取り上げている。
一方、あるクルド人は日本人にも悪さをする人はいるとして、「なぜクルド人だけをやり玉に挙げるのか」と主張する
(本紙8月13日付)。
しかし、社会的課題に対処するには、全体としてどうかという視点が欠かせない。
男性の平均身長より高い女性は数多いけれど、全体として男性が女性より背が高いことを前提に社会生活は営まれている。
たとえば、衣料の品ぞろえをみれば一目瞭然であろう。
国家に我々が期待する第一の仕事である社会秩序の維持も、その構成員の一般的性格によって異なってくる。
幸いなことに、日本ほど犯罪が少なく安心して暮らせる国は珍しい。
国連が集計し公表しているデータから具体的数値を見てみよう。
比較対象は、米国、治安がよく生活水準が高い国の代名詞であるスイス、多くの労働者を日本に送り出しているブラジル、そしてクルド人の母国トルコである。
新型コロナ流行前の2019年(一部16、18年)の人口当たり件数が日本の何倍かで比較する。
まず、殺人は米国が20倍、スイスが2倍、ブラジルが83倍、そしてトルコが10倍である。
強盗となると「格差」はさらに広がり、米国が61倍、スイスが14倍、ブラジルが493倍、トルコが24倍である。
日本は文字通り桁違いに安全な国なのである。
その結果、人口当たりでみて受刑者の数も際立って少なく、米国は日本の16倍、スイスが2倍、ブラジルとトルコが9倍となっている。
実は、日本と同程度に安全な国がもうひとつアジアに存在する。シンガポールである。
ただし人口当たりの受刑者数は日本の5倍で、厳罰によって治安を維持していることが読み取れる。
それに対し、日本は国家が強制力を行使しなくても、秩序だった社会が自発的に維持されているといってよい。
ところが、犯罪対策コストはすべて国内総生産(GDP)に加えられるため、こうしたコストが少ない日本に比べ、他国のGDPは水増しされることになる。
米国のバスの無賃乗車
殺人や強盗といった重大犯罪だけでなく、日本は日常的犯罪も他国に比べれば少ない。
もちろん、日本でも万引はあるし無賃乗車もある。
しかし、それはあくまで例外的事象であり、だからこそ、外国人による公共交通機関の無賃乗車が問題視されるわけである。
一方、米国の首都ワシントンでは、バス利用者の3分の1が無賃乗車しているのである。
国家が強制力をむやみに行使せずとも、社会秩序が維持されてきたのは、そこに住むのがこれまでほとんど日本人だったからである。
日本人は「自然にそうなった」とか「そうするのが自然」という表現をしばしば使う。
しかし、日本人が「自然」と称するものは自然とはかけはなれた文明の成果であり、実際には日本社会は極めて人工的な社会なのである。
そこに日本に比べはるかに過酷で犯罪が多く、17世紀英国の哲学者ホッブズが「万人の万人に対する闘争」と表現した自然状熊により近い社会の人間かやってきたらどうなるであろうか。
以下、レイモンド・フィスマン教授(ボストン大)らの研究に依拠して、今後の日本のあり方を考えるうえでヒントとなる、意図せず行われた社会実験を紹介する。
NY外交官の違法駐車
国連本部があり外交官が集まるニューヨークは、東京と同じ悩みを抱えていた。
外交特権を乱用した違法駐車と反則金支払い拒否である。
ただし未払い駐車違反件数は国により大きな差がある。
1997年から2002年まで、外交官1人当たりの年平均違反回数はクウェート249回、エジプト41回、チャド26回など、違反が多い国には中東・アフリカ諸国が目立つ。
一方、先進国は概して少なく、日本は数少ない違反ゼロの国のひとつである。
外交特権に守られているため、違反するかしないかは、まさに良心の問題。
同一の条件で各国人それも外交官というエリートのモラルを比較する稀有な機会であり、違反件数と本国が秩序だった社会であるか否かとの逆相関は明らかである。
さらに外交官の行動様式は、日本の外国人への「おもてなし」に対する警告となっている。
彼らは任期が長くなるにつれ、やったもの勝ちであることを学び、さらに違反するようになった。
こうした状態に業を煮やした当時のブルームバーク市長は2002年、国務省承認の下、強硬策に打って出る。
反則金未払いが3件を超えた外交官ナンバープレートを取り上げることにしたのである。
その結果、違反件数は98%減少した。
すべての前提である秩序だった社会維持のため、ニューヨークの経験から学ぶべき点は多い。