産経新聞とNHKに告ぐ ― 「西松建設事件」報道の罪とメディアの習性
続き…産経新聞とNHKは、特にこの章を読むべし。
2010年10月02日
目の前のエサに食いつく“習性”
郷原 例えば、産経新聞は、3月8日付紙面で「小沢氏、監督責任も」と報じました。法律上、政治団体代表者の責任は「選任及び監督」に過失がある場合で、会計責任者がダミーだった場合ぐらいしかありえないのに、「監督責任」だけで小沢氏を議員失職に追い込めるかのように報じている。しかも記事では、それを 「捜査関係者」が言っていることになっている。
魚住 基本的に各社が取材に行く検察幹部は、特捜部長、副部長、東京地検次席検事、検事正、高検検事長、高検次席検事、それから検事総長、次長検事といったところでしようか。 僕の経験からいえば、ある時はおしゃべりな上層部がいて、またある時はおしゃべりな現場の検事がいる。僕らは、そういうところを見つけて情報を取るのが仕事です。それで当局と互いに情報交換しながら、お互いの利益をはかる。 その中で、検事と記者の一体感が生まれるのです。
郷原 今回、メディアは検察を抑制できなかったどころか、検察の意向に利用された面があるんじゃないでしょうか。 大久保秘書の起訴を受けて、小沢代表が会見で改めて捜査の不当性を訴え、代表続投の意向を表明した直後の25日午前O時から翌朝にかけて、今度はNHKが「小沢代表秘書が虚偽記載を認める」という内容のニュースを流しました。 これをきっかけに、多くの新聞、テレビが「大久保秘書が大筋で認める」などと続きましたが、27日、大久保秘書の弁護団はこの「自白」を真っ向から否定しています。しかし、こんな報道に接すればみんな、「秘書が認めているのに、なぜ小沢は辞めないのか」と思いますよね。
魚住 記者たちは、大事件が起きると毎日、続報を書かなくてはいけない。まさに正念場です。とにかく一歩でも半歩でもいいから他社に先駆けたいという気持ちなんです。 そんな中、恐らく検察幹部が、「カネの出所は西松だと認める供述をした」とにおわすようなことを言ったんでしょう。当然、記者は「それは自白したってことじゃないですか」と食いつきます。それで各社のニュースになったんだと思います。
郷原 現場で取材している記者の心理からすると、そうなるんでしょうが、メディアとしては絶対にそうならないようにしないといけない話ですよね。目の前にエサをぶら下げられて、パツと食いつく(笑い)。それがそのまま記事になるんだったら、必ず意図的な形で誘導されるようなことが起きる。メディアには、それに対する抑制が働かないのでしようか。
魚住 これは断言できますが、働きません(笑い)。メディア自体にそういうことをやるなと言っても無理な構造なんです。なぜならば、各社が競争をしているからです。その競争といったら、大変なものです。記者一人ひとりの人生がかかっている。特に検察庁といえば、社会部記者たちにとっては最大の主戦場なんですよ。そこで特オチを連発したら、その人はその後、事件記者としてもう浮かばれない。大変なプレッシャーの中で取材をしているのです。
郷原 それは特捜検察も同じ構造です。(笑い) 初めて特捜部で勤務したときに、その評価がすべてを決めるんです。その後、特捜検事として何年か活躍して、検察の現場の中枢を上がっていけるかどうかが決まるのだから、本当にプレッシャーがかかってくる。 その状態で、「お前、こういう調書をとってこい。調書に署名させてこい」などと言われれば、「被疑者、参考人が言っていることを調書の内容にする」という当然のことが、組織の論理の中で「悪いヤツをやっつけるんだから、それぐらいのことはやってもいいんだ」といラ考え方になる。そのために、無理な取り調べをすることになる。従軍記者としての司法記者とまったく同じなんですよ。
魚住 まったく同じ心境の人間が霞が関の一角で“共同作業”を繰―広げる。戦時中、軍部と記者が一体化し、戦線が拡大していったのと同じです。だから、何でもアリなんですよ。
郷原 結局、世の中はそれでまわってきたし、両方でやっているわけですから検察もメディアも批判を受けない。いままでは、それが続いてきたんですね。