本当に怖いのは日本型経済危機 ― 泥沼デフレと心理的停滞の代償

ギリシャ型の破綻より恐ろしいのは日本型経済危機。長期デフレと「心理デフレ」が国力を衰退させ、不平等を拡大させた。ピーター・タスカが指摘する失われた20年の教訓を解説。
『ニューズ・ウィーク日本版』のピーター・タスカによる論考を引用し、世界が恐れるべきはギリシャ型の財政破綻ではなく、日本型の長期デフレであると警告する。筆者は、日本が「失われた20年」で支払った高額な代償として、GDP成長の停滞、国際的地位の低下、「心理デフレ」、そして経済格差の拡大を指摘。デフレを「流砂」に例え、この日本型危機に陥らないよう、各国の政策立案者に警鐘を鳴らす。


本当に怖いのは日本型経済危機だ…。
2010年09月02日

本当に怖いのは日本型経済危機だ  ピーター・タスカ(アーカス・インベストメント共同創設者)…今週号、ニューズ・ウィーク日本版 巻頭記事依り

こんなことになったのはギリシャのせいだ…ところが奇妙な事に債券市場にはまったく緊張感が見られない。…債券市場の投資家の役割は政治家たちの浪費を見張ること。なのに…つまりはこういうことだ。世界中の先進国で経済危機のトラウマに悩む消費者たちが支出を減らして貯蓄を増やし。用心深くなった企業が投資を控えるーつまり誰も借金をしない。その結果、大量の民間資金が津波のごとく安全第一の国債に押し寄せている。各国の財政はかつての基準に照らせば目も当てられない状態だが、世界的な経済危機を経た今、過去の基準はもはや意味を持たない。

視点 世界が恐れるべきはギリシャ型の破綻ではなく 何年間も抜け出せない 日本型の泥沼デフレだ

日本が払った高価な代償

この状況はいずれどうなるのか。日本の例を見てみよう。日本国債の利回りは96年に3%以下に下落した。多くの人は国債バブルが起きていると考えたが、日本はその2年後にデフレに陥った。名目利回りは一見低水準だが、物価を考えれば運用益は十分魅力的だった。現在、政府債務の対GDP比が200%に迫るなか、日本国債の利回りは1%を切っている。それでも投資家にとっては元本が戻ってくるだけで十分だ…

だがギリシャを除く世界各地では日本経済を襲ったようなデフレの泥流が勢いを増している。…ギリシャ経済化よりも日本経済化のほうがずっと危ない。

日本経済のようになることが、なぜそんなに危険なのかと思うかもしれない。何だかんだ言っても、日本はバブル崩壊後の失われた20年をそこそこうまく乗り越えたはずじゃないのか、と。外見上はそう見えるかもしれないが、日本が払った代償は高額だった。89年以降20年間の日本のGDPの伸びは、29年の大恐慌以降のアメリカの20年間に及ばなかった。

自信喪失の「心理デフレ」

必然的に日本の地政学的な地位は下がり、今や中国の挑戦に立ち向かう力はない。とどまるところを知らない産業戦略と超積極的な経営者、金に糸目をつけない消費者という「ナンバーワンの日本」は記憶から消え去った。自信と将来への確信が失われるという「心理デフレ」によって、国債利回りはゼロになっても仕方のない状態にある。

不平等も拡大している。21世紀に入ってから日本では年収300万円以下の世帯が50%増加した。とっくに死亡している高齢者の年金を家族が受給していた事件が最近報じられたが、日本経済がいかに厳しい状態にあるかを浮き彫りにする異様なニュースだ。

デフレは流砂に似ている。落ちるのは簡単だが抜け出すのは極めて難しい。
最善の対策は近づかないこと。ギリシャに気を取られてはならない。
財政や金融、規制上のあらゆる手段を使って、
自分たちの強みを漫然と切り離す日本型経済危機に陥ることだけは避けなければならない。

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