「有言逆実行」内閣:民主党政権の失敗と政治の空洞化

2010年12月2日付の週刊朝日「カームラが行く 怒れ納税者」より。斎藤健議員の国会質問がネットで注目を集め、民主党政権の「有言逆実行」ぶりが皮肉られた。普天間問題や八ツ場ダム、高速道路無料化、子ども手当、農家戸別所得補償など、主要政策はいずれも迷走。理念は消え失せ、政治主導も形骸化し、結局は官僚頼み。民主党議員自身が政権の欠陥を深刻に受け止めていたことが唯一の救いとされる。

2010年12月2日付の週刊朝日記事「カームラが行く」を基に、当時の菅内閣の政策失敗と政権の体たらくを鋭く批判する。政権交代のスローガンであった「政治主導」「コンクリートから人へ」などの理念が、わずか15ヶ月で有名無実化した現状を指摘。衆議院議員の国会質問をラップ調にした動画の流行や、民主党議員自身の証言を引用しながら、理想と現実の乖離、予算編成や政策実行における官僚への依存、そして政治家側の能力不足を浮き彫りにする。結果として、「有言不実行」どころか「有言逆実行」内閣と化した民主党政権の姿を描写し、納税者の怒りを代弁する。

カームラが行く 怒れ納税者…週刊朝日先週号より。
2010年12月02日

カッコ良いのは口先だけ
管内閣は有言逆実行内閣だ!…カームラが行く 怒れ納税者

 今、永田町・霞が関界隈でネットの動画といえば、尖閣衝突事件ではなく。
 「【言っちゃった☆】斎藤健議員の名質問をラップにしてみた。」を指す。自民党の新人、斎藤衆院議員の国会質問(11月9日)を書き起こした文字が、ラップーミュージックに乗って白いスクリーンにポップアップする。音声はそのままだが、絶妙にマッチしている……―

♪皆さんが今まで/言ってきたことと、やってきたことに/大きな乖離があるということに/国民の皆様は疑問を/感じているんだと思うんですよ。
♪普天間もそうでした。/
県外移設をかっこよく打ち上げたけど
♪結局/何の腹案もなかった。/言っちゃったけど何も考えてなかった。
♪沖縄の皆さんの感情と日米関係に/消すことの出来ない大きな傷跡を/残しただけでありました。
♪八ツ場もそうです。/「止める!」とカッコ良く/言っちゃったけど/よく分析していなかった。

 その後も尖閣問題や消費増税、財源問題、企業・団体献金、鳩山前首相の引退宣言などに次々と切り込む。
すべてに共通するキメ台詞がこれだ。
♪カッコ良く言っちゃったけど/よく考えていなかった。

批判された側の民主党議員さえ、この動画を見て、「ホントに、このとおりですよ」とため息をついた。

この議員、党の政策調査会に所属しているのだが……。
「政調では、縦割りから脱却しようと、省庁ごとの部会ではなく、政策テーマ別のプロジェクトチームで検討していますが、横割りにしてみたら、利害関係がパラパラでちっともまとまらない。菅さんに何をしたいのかという理念がないと、まとめるのは無理です」
やっぱり、「省庁縦割りを脱却し」なんてカッコ良く言っちゃったけど、うまくいかないのだ。

でも、政権交代前は、理念は山ほどあったんじゃないのか。
「コンクリートから人へ」「国民の生活が第一」「税金を国民の手に取り戻す」等々。わずか15ヵ月で、いったいどこへ行ったのか。

そもそも、民主党が個別の政策を実現するための出発点は「予算の組み替え」だった。
207兆円の予算を全面的に組み替え、16・8兆円の財源が捻出できる。それを使ってマニフェストを実現するはずだった。つまり、これができなければ、すべての理念は幻に終わってしまうのである。

「4K」と言われる民主党の目玉政策、①子ども手当、②高速道路無料化、③農家の戸別所得補償、④高校無償化のうち、問題がクローズアップされていないのは高校無償化くらいのもの。ほかは迷走、あるいは逆走するばかりである。

初年度、半額の月1万3千円支給で始まった子ども手当は、来年度からの満額支給を断念しただけでなく、
「満額にするカネがあるなら保育園などの現物給付にしたほうがいい」という流れが強まっている。
何かヘンだ。
「そもそも、保育園などの施設整備は地方に任せるはずだった。党は『地域主権』を約束したはずなのに、ふたを開けたら、中央集権的な議論ばかりです」(別の民主党議員)

高速の無料化もそうだ。
当初は無料化実験のため6千億円かける、と言っていたが、財源がないとみるや1千億円に圧縮された。
「先日、実験の効果が発表されたが、ほとんどの都道府県は、データ不十分を理由に『現時点での評価は困難』と回答した。ある程度の規模でやらなければ、効果など出るわけがありません」(道路政策に詳しい民主党議員)

農家の戸別所得補償などは、そもそもの理念と逆行した例である。
当初は、「戸別補償することで農協の支配から脱却し、米価が下がって競争力が強化される」という話だったはず。ところが、単なるバラマキになり、やる気のない零細兼業農家だけが喜ぶ仕組みになってしまった。
「減反への参加を支給の条件にしたため、農地の集約化に歯止めをかけ、競争力がつくどころか、弱体化しています」(農水省OB) 

2011年度予算は、民主党が1から編成する初めての予算になる。だが、事業仕分けは 「財源がないと証明しただけ」(民主党中堅議員)政策重視を装うために「政策コンテスト」という仕組みを打ち出したが、これも首をかしげたくなる。
「予算を多く減らした省庁には、新規事業を増やすインセンティブが与えられる、というものですが、どうして縦割りなんでしょう。省庁の枠を超えて、予算を総組み替えするはずじゃなかったんですかね」(前出の政調所属の議員)

もう一度、昨夏の民主党の主張を思い出してみたい。
予算組み替えの大前提は 「脱官僚」「政治主導」だった。
その上で国家戦略局を設置し、予算に優先順位をつけていくはずだった。
ところが、肝心の国家戦略局は、今も設置法さえない「国家戦略室」のまま。
事業仕分けをする行政刷新会議も、法的な権限は持たされず、言いっぱなし。
政治主導なんて、影も形もない。

「政権交代直後は、『今後、大臣はほとんど官邸にいることになる。随時、閣僚委員会を開いて次々と課題をこなしていく』なんて言っていた。それが今では、みんな官邸に寄り付きたくないと思っている」(政務三役の経験者)

結局、菅首相や仙谷官房長官が頼れる相手は、官邸に巣くう官僚だけなのか。
「政治主導なんて迂闘なことを言った」枝野幸男幹事長代理は11月14日、地元の講演会でそう言い放ったそうだ。

だったら、議員バッジを外してほしい。
「なんのために投票したんだ!」と叫びたくなる。

情報公開も、あれだけ大声で唱えたのに、閣僚の記者会見を中途半端にオープン化しただけ。
いまだに官房長官の記者会見は記者クラブ限定だ。

政務三役までが呆れる。
「菅内閣は有言実行と言っていますが、現状は、自民党が言う『有言不実行内閣』にすらなっていない。改革に逆行する『有言逆実行内翼』です」

ま、民主党の欠点をより詳しく把握し、深刻に受け止めていたのが、当の民主党議員たち自身だったことが、唯一の救いか。

本誌・川村昌代


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