働く女性「なでしこ」に続け ― 均等法25年、道まだ半ば
働く女性「なでしこ」に続け 均等法25年、道まだ半ば 論説委員 岩田 三代…日経8面から。
2011年07月31日
文中黒字化と拡大は私。
「さわー、ありがとう」 「なでしこ、よくやった」。テレビ画面から感激した若い男性の叫び声が聞こえる。
サッカー女子ワールドカップでの日本代表チームの優勝は、日本中に感動をもたらした。
「サッカーは男のスポーツ」とのイメージも強い日本で、女性がサッカーを続けること自体、簡単ではない。
それをはねかえし、粘り強いプレーで世界一をかちとった。
優勝を我がことのように喜ぶ男女サポーターの姿に、またひとつ社会が変わりつつあることを感じた。
1986年に男女雇用機会均等法が施行されてから、25年がたつ。
採用や配置など雇用のあらゆる場面で男女の均等処遇を求める内容に、当時、経営者団体からは「こんな法律ができたら日本は崩壊する」と反対の声もあがった。
だが、そんな心配は全く杞憂(きゆう)だった。
86年に1534万だった女性雇用者は2010年には2329万人と、雇用者全体の43%にまで増えた。
かつて女性の職場といえば事務や販売などが大半だったが、今では飛行機のパイロットや大型機械のオペレーター、消防士など活躍分野も広かった。
大手企業の管理職や役員になる例も目に付く。
女性が働くことはもはや当たり前になった。
雇用されて働く女性の半数は、すでに均等法施行後に入社した世代だ。
恵まれない環境の中で実力を磨き、夢を実現した「なでしこジャパン」の活躍ぶりは、かつて男性中心だった職場の中で奮闘してきた女性の姿とも重なる。
とはいえ、均等への道はまだ半ばだ。世界の変化に比べて日本の歩みはあまりに遅い。働く女性の割合は先進国でそれほどひけをとらないが、管理職や役員など指導的地位に就く人となると圧倒的に見劣りする。
11年版「男女共同参画白書」によれば、民間企業の係長相当職に占める女性の割合は13・7%、課長相当職は7・O%、部長相当職は4・2%と職位が上がるにつれ減っていく。上場企業の役員となると、なんと1・2%だ。国家公務員でも本省の課長相当職以上では、わずか2・2%にすぎない。
管理的職業につく割合は、日本の10・6%に対し米国は46・7%。北欧やフランス、ドイツ、英国、シンガポールなども軒並み3割を超える。研究者に占める割合も日本は13・6%で世界的に低く、韓国にも及ばない。
共働き世帯は専業主婦世帯を200万世帯も上回る。だが「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」との考えをまだ4割強が支持しており、根強い分業意識が活躍を妨げている。
海外では、近年、格差是正の積極的な措置(ポジティブアクション)が導入されている。政治分野では議席や候補者の一定割合を女性に割り当てたり、政党が自発的に議員候補者の一定割合を女性にしたりする制度が知られ、87力国が導入済みだ。
経済分野では、フランスが17年までの時限立法で上場企業に取締役及び監査役を男女それぞれ40%以上にするよう求めている。ノルウェーは取締役の人数に応じて一定数を女性に割り当て、守れなければ企業名の公表などの制裁を科す。イスラエル、スペイン、オランダなども同様の法制度を持つ。
日本でも、内閣府が昨年12月の第3次男女共同参画基本計画でポジティブアクション推進を打ち出した。これには男性への逆差別との批判もある。しかし過去の差別的取り扱いで生じた格差を埋めるには、思い切った是正策を取る必要があるということだ。
いきなり法律で強制するのは無理だが、資生堂やみずほフィナンシャルグループなど、期限を区切り女性管理職比率の目標値を定めて、格差是正に努める企業もある。女性育成に本気で取り組むなら、有能な女性がキャリアを積めるよう工夫すべきだ。
その際に忘れてならないのは、保育所の整備と、男女ともに仕事と生活の調和がとれる働き方の実現だ。企業の管理職からは「登用しようとしても本人が嫌がる」との声がある。多くの女性は結婚も出産もしたいと願っている。モデルとなる先輩も少なく、仕事か子どもかを選ばざるを得ない状況では二の足を踏むのは当然だ。
女性の意識改革も求めたい。IOO%自信がないと前に進みたがらない人も多いが、そんな状況はありえない。「まずはやってみること。上にいけば見える景色が違う」。女性役員の多くはこう話す。
少子高齢社会を迎え、女性の活躍はいっそう期待されている。世界での競争を勝ち抜くにも、多様な人材の活用は欠かせない。