鵺の様な人間、鵺の様な状態ほど、まともな人間に害を及ぼすものはないのだ。…何故か?そこは何でもありの世界だからだ。

日経・朝日の読書欄から、ミンツバーグのマネジメント論、ラジャンの「断層線」、東アジア通貨統合の戦略、ジェンダーと国家の豊かさ、価格戦争の負の連鎖、五感の驚異、コーネルと現代美術、子規の比較思考、都知事の権限と手法、戦争の「鵺」までを一望。自らの主張「文明のターンテーブル」と響き合う論点を整理し、メディアと為政者への批判を重ねる。
2011年3月22日のブログ記事。日経新聞や朝日新聞の書評を引用しながら、マネジメント論、金融危機、ジェンダー、芸術、文学、政治といった多岐にわたるテーマを論じ、東日本大震災後の日本の現状を深く考察します。筆者は、これらの書評が自身の「文明のターンテーブル」論と一致することを指摘し、日本のデフレと政治の無能さは、長年「清貧の思想」といった虚構を掲げたメディアの責任であると断じます。そして、真の日本の誇りは、勤勉な労働者と職人魂を持つ企業にあると主張し、メディアの変革を強く求めます。

マネジャーの実像、ヘンリー・ミンツバーグ著…日経、日曜読書欄から。
評者:神戸大学教授 金井 壽宏
マネジャーとは日常行動において一体何を行っているのか、その行動パターンはどのような意味をもっているのか、という問題に深い興味をもつ読者にとって、待望の邦訳が出た。本書はトップやミドルの日常行動をつぶさに観察することから得られた洞察に満ちた実践的な研究書で、経営者にも中間管理職にもマネジャーとしての自分の役割、普段の行動を振り返る契機として役立つだろう。
…中略。
その結果、戦略は組織の中での日常の相互接触から進化論的に創発されるというのが彼の経営戦略論の基底をなす考え方である。これはIT革命によっても揺らいでいないという。…中略
計画の落とし穴、分析の迷宮、秩序の謎、自信の罠など、合計31項目の手掛かりが示されている。
彼の研究はその調査アプローチの斬新さと、主流派的な見方を乗り越えようとする点に特長がある。
…後略。
「フォールト・ラインズ」、ラグラム・ラジャン著…日経、読書欄から。
評者:慶応大学教授 池尾和人
今次の米国発の世界的な金融危機を引き起こした主原因は、「金融関係者の貪欲さ」と「規制当局者の無能さ」であるという見方は、広く通説化している。しかし、それでは金融規制を強化し、実効的なものにさえすれば、金融危機の再発を防止することができるのだろうか。
…中略。
著者のラジャンによれば、中でも大きな断層線は、米国における所得格差の拡大である。技術革新が所得格差の拡大につながっている面があり、その是正のためには、変化に対応できる人的資本の形成を促す教育の拡充が求められる。しかし、教育による問題解決には長い時間を要する。米国では雇用保障や各種のセーフティーネットが乏しいことから、政治家は時間をかけていられず、とかく即効的な対策を求めたがる。…中略
他にも、ますます多くの国が輸出主導型の経済成長路線をとるようになった結果、米国が過剰消費を続けることを許容するような世界経済の不均衡が続いていること、また米国政府の景気対策のあり方が金融関係者の誘因構造を歪めて、過度のリスク負担に走らせるようなものだったことなど、いくつもの断層線が未だに存在しているという。これらの断層線を埋める根本的な取り組みなしには、問題を本当に解決したことにはならないというのが本書の主張である。こうした主張は深く説得的であり、昨年フィナンシャル・タイムズ(FT)ビジネス書大賞に選ばれたことも納得できる。
…以下略。

*私が、「文明のターンテーブル」、の、タイトルとした書き出しで書いた事と、同じ事だと、私は思うし、私の解決策も提示したと思っている。

幻想の東アジア通貨統合、西村陽造著…日経読書欄から。
評者:アジア開発銀行研究所所長 河合正弘
本書の表題は東アジア通貨統合は幻想にすぎず、この問題を考察するのは意味がないと論じている書のような印象を与える。しかし、実際には日本の観点から、通貨統合への戦略を体系的に整理・検討するのが本書の目的だ。
…中略。
その上で、日本にとって参加・不参加のいずれが望ましいかは自明ではなく、日本は東アジアの地域経済統合には積極参加する一方、通貨統合には慎重な立場をとるべきこと、日本は参加・不参加の両睨みの立場をとるためにも、経済的衰退を最小限に抑える努力を行い、…以下略。
本書の基本的な考え方には概ね賛成である。ただし中国経済の「量」的拡大が過大評価され、日本経済の「質」的な高さが十分評価されていないように思われる。例えば、中国では政治体制転換、所得格差の縮小、高齢化への対応など、難題が山積している。また日本が財政再建を果たし、少子高齢化に対応できる生産性の高い経済を実現させ、東京市場を競争力のある国際金融センターにして円の役割を高められれば、日本は相当な影響力を発揮できるはずだ。

*この河合氏の意見についても、私は、「金融大国になることが何故大事か」の章や、「金融とは、一企業の事ではない、国家戦略のことである」、等の章や、その他の章に於いて、繰り返し書いて来た事と同義であると私は思う。

「20世紀アメリカン・システムとジェンダー秩序」大嶽秀夫著…日経読書欄から。

評者:慶応大学教授 渡辺 靖
冷戦時代、とある産業博覧会に展示された米国のモダンなキッチンを前に、ニクソンは米国の主婦の生活が楽になったとフルシチョフに自慢した。するとフルシチョフはソ連ではもう専業主婦そのものが不要になったと豪語した。

*これは最高の笑い話で、渡辺氏の見事な枕言葉でしょう。

社会のあり方や豊かさは、つねに男女の社会的役割や文化的規範の違い、すなわちジェンダーと結びつけられて論じられてきた。しかし、その割に、政治学によるジェンダーの扱いは総じて周縁的なままたった。政治過程論や政治理論の第一人者の手による本書はその意味でまず価値がある。切り込んでいる問いも鋭く深い。…以下略。

*女性の解放度が、国の豊かさのバロメーターであり、…その事を知らしめるだけで世界は一気に平和に成る。…だからこそ、日本は、20数年前に、「文明のターンテーブル」、が廻った時に、私たちが偶然作り上げた、人類史上初めての文化=New Big Voice=を、世界中に響かせるべき=Echo=させるべきだったと書いたのです。…ましてや、何にも見えていない権力追従の頭で、朝日の論説員たちは「清貧の思想」などと、下らぬ事を言って、更には、たへばなが開始した「政治とカネ」なぞという虚構を作り続け…。

こんなに阿呆なデフレの20年を作り、現執行部の様なものを作るべきではなかった事を糾し、二度と彼らは言論の表舞台に登場してはならないと糾すのです。


「価格戦争は暴走する」、エレン・ラペル・シェル著…日経読書面、小欄から。
ディスカウントストアなど低価格競争が繰り返される激安の現場を丹念に取材し、その問題点を指摘する。低価格を実現すればするほどそこで働く労働者の賃金は抑えられ、購買力が減退するという。低価格商品しか買わなくなる負の連鎖から抜け出せず、高品質の製品やサービスを基本とする業者が淘汰されるー。グローバル化が進む21世型の「悪貨は良貨を駆逐する」実態を「死の行進」と言い切る。楡井浩一訳。(筑摩書房)

*我らが日本の誇りとは、日本人労働者の勤勉さと decency の上で、遥か昔から…強烈なところで言えば、平安時代の定朝の昔から…世界最高級の職人魂を発揮して来た国民が、原型である、大企業や、中小企業の優秀さに在るのであって、デフレの時代に金儲けをしました等という経営者たちには、申し訳ないが、我らが日本の誇りなんぞは、ないのだ、と言う事に、もう、好い加減気付くべきなのです。…例えば、女性について、そこらのあんちゃんのような事を言ったり…僕は、この人に…私よりもずっと若者だ…とてもシンパシーは感じているのですが。


「最新脳科学でわかった五感の驚異」、ローレンス・D・ローゼンブラム著…日経読書面、小欄から。
コウモリのように口から発する音の反響によって障害物の位置を知り、マウンテンバイクでのツーリングを楽しむ目の見えない人たち。相手の顔に触れることで話の内容を理解できる視聴覚障害者。釣り糸の感触で魚の種類や年齢までわかるという釣りの達人。彼らの驚異的な能力を可能にしている五感の仕組みを、最新の脳科学の知見から分析する。人間の脳の、偉大さと不思議さを再認識させてくれる一冊だ。斎藤慎子訳。(講談社)

「ジョゼフ・コーネル、箱の中のユートピア」デボラ・ソロモン〈著〉…朝日読書欄から。
評者:横尾忠則…横尾さんは、ここんとこずっと冴えてるね(笑)
芸術家の伝記が面白いのは、周囲の人間たちが魅了されるあまり人生が壊されていくからだと著者は描くが、この伝記の主人公コーネルは皮肉にも周囲の人間によってどんどん壊されていく。
…中略
コーネルといえばモダニズムと無縁の象徴主義的な秘境の隠者のイメージが濃く「大人の玩具」作家ぐらいにしか思われていなかったが、とんでもない。シュルレアリスム、表現主義、ミニマリズム、ポップアートと20世紀が駆け抜けた現代美術の足跡を辿る時、そのコアにご神体のように鎮座していたのが実はジョゼフ・コーネルだったことを今や誰も否定しない。
…中略
それも憧れの女性たちには指一本触れることもせず童貞のまま、失意のどん底で悪夢の芸術家コーネルを慰めるのは、「天文台」と呼ぶ彼の家の台所から夜空の星を数える時間だ。自らの存在をあたかも天に属する者と定め、あの世での不死を信じ、自分がこの世から失(な)くなるのをただ待つだけの禁欲の男が僕の脳裏に浮かび上がってくる。

「正岡子規 言葉と生きる」坪内稔典〈著〉…朝日の読書欄から。
評者:四ノ原恒憲(編集員)
「子規」 「不如帰」 「時鳥」 「杜鵠」 「蜀魂」 「杜宇」・…・・。日本語で詩を作るアメリカ生まれのアーサー・ビナードさんは、これらすべてを「ホトトギス」と読む日本語表現の豊かさに、あるエッセーで触れていた。でも、正岡子規のことを知れば知るほど、「子規」の表記が印象深くなるとも。
…中略。
上京しての学生時代には、学友を容色、色欲、才気など八部門で採点。また、親しい友人を細かく分類する。ちなみに後の漱石は「畏友」、秋山真之は 「剛友」とはしかり。こんな、比較、分類という方法にこだわる思考の芽生えは、後の、芭蕉に比較して蕪村、古今集に比較して万葉集の価値の「発見」という、当時の評価を覆す、彼の大きな業績につながる。
…後略。
都知事」 佐々木信夫著…日経読書面、小欄から。
人ロ1,300万人、国内総生産(GDP)換算で世界の国の10位以内の経済規模を誇る東京都。行政体の都庁は職員17万人、特別会計などを含めた財政規模は12兆円を超す巨大組織であり、そのトップである都知事は大きな権限をもつ権力者だ。
…中略。
政治的立場は逆で実際に都知事選で戦ったこともある美濃部亮吉、石原慎太郎両氏が側近を使ったトップダウンの政治手法、大企業への超過課税と銀行への外形標準課税(銀行税)、環境問題への対応、政府との対決姿勢など極めて似ている点に気づかされる。…後略。

「顔のない軍隊」、エベリオ・ロセーロ著…日経読書欄から。
評者:東京大学教授 野谷文昭
山間の牧歌的な村に住む、今は年金生活を送る元教師のくおれ〉が語り始める。この老人には昔から覗き癖があり、楽しみは隣家の夫人が裸で日光浴するのを盗み見ることだ。ここでは性が生の証になっている。
…中略。
鵺(ぬえ)のような母国の戦争の感触を、著者は巧みに捉えている。顔のない軍隊に欠けているのは想像力だろう。想像力があるからこそ村人たちは恐怖する。悪夢そのものの世界だ。冒頭を反転させた、最後の性と死の光景は、きっと読者を慄然とさせるに違いない。

*鵺の様な人間、鵺の様な状態ほど、まともな人間に害を及ぼすものはないのだ。…何故か?そこは何でもありの世界だからだ。


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