菅がG8で国際公約としてぶち上げたのは、これが源流だ。そもそもは総理の暇つぶしのために作られた生煮えの構想が、全世界に向けた国際公約に転じていく。

引用:AERA,2011年6月6日号,57-59,ホリエモン収監前の気持ち 獄中ビジネスはもう考えてます
2011/6/1
<前略>
ーこれからも闘うぞ、などとは思わない?
「怒りのエネルギーは相手に向けられるだけでなく自分にも返ってくる。怒りや恨みに自分が支配されると、楽しくないですよ。早く忘れてさっぱりした方がいい。だから腹が立つ人がいない分野の仕事を探すんです」政治の仕事は小さい
技術は社会を変える
ー宇宙旅行の商業化に取り組んでいますね。
「宇宙というと最先端技術に思えますが、宇宙空間に出るだけならありふれた技術で可能です。スペースシャトルのように地球の周りを回って帰ってくるのは難しくはない。安く正確に打ち上げることは日本の技術力があればできる。いままでやろうとした人たちがいなかっただけです。それを僕たちがベンチャーでやる。いまはまずロケットを自前で作ることから始めています。ロケット好きたちが熱い思いで取り組んでいます。3月に北海道の試射場で打ち上げに成功しました。3年ぐらいで実験カプセルを地球の周回軌道に乗せたい。刑務所を出る頃には、ロケット争業が軌道に乗っていると思うと本当に楽しみです。
宇宙に格安料金で行ける事業を作れば、宇宙ビジネスは一挙にブレークすると思う。研究室で眠っている日の当たらない先端技術に資金や関心が集まり、新しい産業が生まれます。夢のようなこと、と思われるかもしれませんが、夢想したことを実現してきたのが人類の歴史です」
ー宇宙を目指すきっかけは? 「ボクが生まれる前にアポロは月へ行き、物心ついた時にはアポロ計画は終わっていた。『宇宙戦艦ヤマト』で育ったボクらは大人になった頃には太陽系の外に出るんだろう、と思っていた。大学に残って研究者になるつもりが、オーバードクターの悲哀や予算がない実態を知って、目標を失いました。自堕落になって遊び、たまたまインターネットに出合って今の道に入りましたが、会社がうまくいった頃、宇宙ステーションのミールが売りに出たことを知りました。20億円。買えるな、と。上場して使い切れないほどのカネが入り、宇宙が手の届くところに来た。稼ぐのは宇宙ビジネスの資金作り、という目標が出来ました。逮捕されたのはそんな頃です」
ーもう一度政治の世界に出る気はさらさらないですか。
「政治家の仕事は小さすぎます。ニッポン村の村会議員には魅力を感じませんね。誰が首相になっても日本は変わりませんが、技術は社会を変えます。その歯車を宇宙から回したい」
ー技術といえば原発がとんでもないことになっていますね。
「原発技術者は45歳以下はダメですね。ボクが東大にいたころ、ひどい成績の先輩が原子刀工学科に行きました。チェルノブイリ事故の影響で、原子力はすこぶる不人気で定員割れが続いていました。ボクの在学中に東大は、とうとう原子刀の名を捨てシステム量子工学科に、さらにシステム創成学科に変えました。この現状がいまの原発の状況につながっているのです」
日本経済新聞,平成23年5月31日(火),1面
新しい日本へ 第3部 世界が見つめる 1
アレクサンダー・ローパーズ(52)がニューヨークから東京に飛んできたのは東日本大震災から2ヵ月がたった5月11日。2000億円規模の資産を運用する米ヘッジファンド、アトランティック・インペストメント・マネジメントの社長だ。
底カヘの期待感
訪日の目的は「日本株式会社」の震災後を探ること。機械、化学、サービス……。同僚と手分けし、3日で20社を訪問したローパーズは「勇気づけられた」と満足げに帰国した。収益が回復する手応えを感じたのだ。
日本株の投資歴は7年。しかも震災の翌週は買い増した。3月10日に約1万400円だった日経平均株価が15日には8600円まで急落。魅力的な企業の株が次々と格安で手に入った。
同社だけではない。国内投資家とは逆に、外国人は日本株を買い続けた。買い越しは先週まで29週連続に及ぶ。
日本を襲った未曽有の危機。だが海外マネーが期待したのは、日本の底力だった。
米ボストン。ウォール街に大量の人材を送り込むハーバード・ビジネス・スクール(HBS)には「逆境に強い日本」の証拠があふれている。
3月15日。イノベーション(技術革新)が専門の准教授、トム・ニコラス(39)は、HBSのウェブサイトに論評を寄せた。1923年の関東大震災の後、日本では特許登録が3年で7割も増え、復興を支えたという分析だ。「今回も日本は復活する」と念を押した。
HBSの図書館には、当時のウォール街が日本をどう見ていたのかを示す資料が残っている。「4年で2度の危機を克服したまれな国だ」。27年10月に訪日したJPモルガン首脳陣の見聞記。同年春の昭和金融恐慌も、最悪期を終えていた。
「日本株離れ」も
歴史はすでに、繰り返しつつある。例えば、サプライチェーン(供給網)の寸断。いま、連日表面化しているのは、生産正常化の前倒しを重ねるトヨタ自動車など企業の踏ん張りだ。
ただ、海外マネーの期待が的中したとはまだいえない。メリルリンチ日本証券のチーフ株式ストラテジスト、菊地正俊 (48)は、16日から訪れた香港とシンガポールで変調に接した。投資家の口から「もう日本株を買う気はない」ということばが漏れ始めたのだ。
スピード感のある民間とは裏腹にいまだに指導力を発揮できない政府の対応が理由だ。「復興需要は本当に生じるのか」。菊地が聞かされたのは、第2次補正予算編成の遅れなど「民高政低」への不信感たった。そして原発への対応。「思考過程がブラックボックス」。9日には、浜岡原発の操業停止を突然求めた政府に日本経団連の会長、米倉弘昌(74)が業を煮やした。「読めない政策」では企業も投資家も萎縮してしまう。
日本に歩みを止める余裕はない。リーマン・ショックから3年が過ぎ、世界は一足先に危機から抜け出しつつある。
「出口への重要な一里塚だ」。米財務長官のティモシー・ガイトナー (49)は24日声明を出した。2008年に国有化した保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)株の売り出しだ。6月には、米連邦準備理事会(FRB)も量的緩和を終える。
歴史が示すとおり、日本は国難を機会に変えるのか。それとも世界の成長から取り残されるのか。グローバル化した市場は、真つ先にその結果を映し出す。=敬称略

引用:AERA,2011年6月6日号,22-23,編集部 大鹿靖明
理系総理がはめられた
国際公約までしてしまった菅首相のエネルギー政策の転換。
突然の“宣言”は、省益拡大を狙った各省の「トンデモ提案」合戦に乗せられた結果である。
<中略>
菅の真実の姿は「裸の王様」だった。
官邸のスタッフはこう冷たく言い放つ。
「ええかっこしいで、その場しのぎ。彼に限らず民主党の政治家は、自分がどう見えるか、どう見せたいか、それしかない」
50代のベテラン官僚をも怒鳴り散らす菅には、人が寄りつかない。実務は枝野幸男官房長官以下に任せきりである。
この時期東電の賠償スキームの作成が大づめを迎え、「インナー」と呼ばれる関係閣僚会合が連日開かれたが、菅はそこには入っていない。
「あの人が入るとむちゃくちゃになる」(官邸関係者)と外され、加わったのはスキームが発表される前日の12日からだ。未曽有の国難なのに、彼の日程は4月後半から5月の連休にかけて空白だらけだった。
<中略>
「す、すごいな」連発
経産省の松永は菅原郁郎産業技術環境局長を連れて5月12日午前、官邸に参上した。
菅原が資料を見せながら説明する。「非連続的な技術開発によってエネルギーで三つの革命を起こします。世界の誰もまねできない技術大国日本が、これで復活するのです」
菅原は福田康夫元首相の秘書官として官邸勤務歴があり、政治家を転がすのがうまい。
政権交代直後には民主党の要路に、同省所管外の日本航空の倒産策を持ち込み、重宝がられた。
菅原が巧みな話術で説明する。
ー量子ドット型太陽電池だと発電効率が3倍になります。
「なんだって。すごいな」
ーリチウム空気電池ならば、今まで100キロだった電気自動車の走行距離が1千キロになります。
「す、すごいな、これは」
ー超伝導技術もあります。送電ロスは10分の1です。
「すごいな。これは……すごいことだぞ」
ーナノカーボンで自動車や飛行機は3割も軽くなります。
「銅の1千倍の導電性か、すごいなあ」
―革新的触媒もあります。
「すごい、人工光合成か。葉緑素の代わりに触媒で、だな」
これらで原発14基分のエネルギーが捻出できる、そう聞いて菅は衝撃を受けた。
経産省の術中にはまったのである。
経産省の術策は、東工大卒で理系の菅が「個別技術に関心を持たれているため、具体的技術についてご説明する」ことだった。
技術の話で歓心を買い、予算をつけさせる。経産省は参加メーカーを募って技術研究組合を組織化し、同組合に専務理事の天下りポストを得るーこんな算段だ。
問題は、どれもこれも即座には実現しそうにない技術ばかりという点である。
良心派の官僚は、こう重い口を開いた。「理科オタクの総理につけ込んで騙したのです。ひどい話です」
菅はそんな裏事情を露ほども知らない。
<中略>
菅がG8で国際公約としてぶち上げたのは、これが源流だ。
そもそもは総理の暇つぶしのために作られた生煮えの構想が、全世界に向けた国際公約に転じていく。

<後略>

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