被災地支援や節電協力など、いま日本人が見せている連帯の精神には胸を打たれる。しかしそれをいいことに、必要な問いと必要な選択をうやむやにしてはならない。
日本経済をダメにした「現状維持」を変える時② 2011年6月8日号ニューズウィークより。
税制と規制の抜本改革抜きに、それは実現しない。結局、金融資本と人材が香港とシンガポールに流出し続けている。原発事故が起きるずっと前から、「黒船」は水平線のかなたに去り始めていたのである。
3・11のようなーあるいはもっとひどいー想定外の打撃に翻弄されない体制を築くためには、東京への一極集中を緩和し、地方都市を行政と商業の拠点として育てる必要がある。しかし、地域間の「税競争」を全面的に認めない限り、地方分権は掛け声倒れに終わる。
逆に、例えば九州や沖縄に金融拠点を築き、良質の交通システムとインフラを整えた上で、特別に税負担を緩和すれば、アジアなどからトップクラスの企業と人材がやって来るだろう。黒船は確実に戻ってくる。
日本には、こうしたすべてを実行する財力がある。日本が「次のギリシヤ」になりかねないと財政規律重視派は脅すが、日本が世界一の債権国であることは変わりない。政府は増税で経済成長の足を引っ張るのではなく、空前の低金利を追い風に、可能な限り償還期限の長い「復興債」を発行すべきだ。
お手本もある。例えばメキシコは昨年、100年物の国債を発行した。その上を行くのはイギリスだ。19世紀初めのナポレオン戦争の戦費調達のために無期限国債を発行している。
不可能ではない。日本の企業や個人は毎年、莫大な金額の貯蓄を行っている。その金額は、日本の財政赤字をすべて埋め合わせてもまだたっぷりお釣りが来る規模に達している。
もっと摩擦と想像力を
日本再生のアイデアはいくらでもある。その多くは、10年以上前から議論されてきたものだ。議論ばかりで実行に移されてこなかったのだ。
もっともリーダーシップの欠如など政治の欠陥を生んだ責任は、もとをただせば現状に満足して政治への無関心を決め込んできた国民にある。どの国の国民も、たいてい自分たちにふさわしい指導者を得るものだ。
*まさか、今がそうなのだとしたら、世も末だろう。
被災地支援や節電協力など、いま日本人が見せている連帯の精神には胸を打たれる。しかしそれをいいことに、必要な問いと必要な選択をうやむやにしてはならない。
いま日本には調和が満ちている。もしかすると、調和があり過ぎるのかもしれない。いま日本が直面している深刻な問題を解決するためには、もラ少しの摩擦と今よりはるかに多くの想像力があったほうがいい。
ピーター・タスカ(投資顧問会社アーカスリサーチ・アナリスト)
復興財源と原発について…私の提言。復興財源とエネルギー問題に関する提言:公務員給与と株式市場、そして石炭火力発電:2011-05-25 – 文明のターンテーブル
と重ねて読んでみて下さい。