政策空転 とどまる首相 動かぬ与党・省庁 平成23年6月4日(土)日本経済新聞1面
政策空転 とどまる首相 動かぬ与党・省庁(1)
平成23年6月4日(土)日本経済新聞 1面
政策空転 とどまる首相 動かぬ与党・省庁
年明けまでの続投に意欲を示す菅直人首相への早期退陣要求が3日、与野党で拡大した。
民主党内では首相の責任を追及する両院議員総会を求める動きが広がり、野党は予算執行に欠かせない赤字国債発行法案の成立を阻止する構えだ。
退陣表明した首相が首脳外交をすることへの疑問もある。
参院の 「逆転国会」だけでなく、与党内の造反で衆院の運営も滞りかねない。
政権基盤が大きく傷ついた首相が課題を実行するメドはなく、政策空転の懸念が強まる。
(赤字国債発行法案は3面「きょうのことば」参照)=関連記事2面に
退陣の確約と引き換えに、内閣不信任決議案の否決に回ったはずの鳩山由紀夫前首相は3日、小沢一郎元代表に電話で 「早期退陣の約束は守らせる」と伝えた。
鳩山・小沢系議員は「首相の責任追及の場」と位置付ける両院議員総会開催を求める署名活動を強化した。
首相は3日も政権維持への意欲を繰り返した。
今国会の12月までの大幅な会期延長も、政権維持と関連する。
不信任案は1国会で1度しか出せない慣例となっており、延長すれば倒閣の手段はなくなるとみる。
政策空転 とどまる首相 動かぬ与党・省庁(2)
平成23年6月4日(土)日本経済新聞 1面
<前の記事のつづき>
「造反リスク」
民主党内では鳩山・小沢系だけでなく、主流派にも早期退陣論が広がる。
野党が主導権を握る参院だけでなく、与党が300超の議席を持つ衆院でも、困難に直面する事態は否定できない。
今年度第2次補正予算案も与党から約70人が造反すれば衆院を通過しない。
あらゆる法案で首相は「造反リスク」を抱え込んだ。
不信任案の否決前より、環境は与党内の事情で厳しくなった。
「復興基本法案には協力する。死に体政権にそれ以上、協力できない」。
自民党の谷垣禎一総裁は3日の総務会で民主、公明両党と修正で大筋合意した基本法案は通す考えを示した。
これ以外にも今月末に期限が切れると、国民生活に直ちに影響が出る政策減税(租税特別措置)を盛り込んだ税制改正法案など少数の法案は処理する。自公両党は他の重要法案では対決する構えだ。
最重要法案の赤字国債法案も阻止する方針で、成立しなければ財政は危機的状況に陥る。
8月末ごろの閣議決定を想定する2次補正は首相が退き、今国会が閉幕していれば、臨時国会を召集して成立させるのが、常識的な線だ。
首相続投のままなら、予算執行に必要な関連法案が成立する見込みはない。
首相が補正への盛り込みを指示した大震災の被災企業や被災者が抱える「二重ローン」問題への対応も遅れる可能性がある。
10兆~15兆円に上る政策課題のほとんどが、先送りされる。
中央省庁は政治状況に敏感だ。
「この状況で予算に重要事業を要求する役所はない」「社会保障と税の一体改革に関連した法案も出したくない」と経済官庁の幹部は語る。
原発事故被害者への東京電力の賠償を政府が支援する枠組みをつくる法案も宙に浮く。
成立の遅れは賠償金支払いを滞らせ、銀行の新規融資が受けられない東電の資金繰り悪化につながり、市場に悪影響を与えかねない。
外交停滞も
「6、7、8月は一つの考え方だ」。
松本剛明外相は3日の記者会見で、退陣時期にこんな見方を示した。8月は外交でも退陣ギリギリの期限だからだ。
日米両政府は9月上旬に首脳会談を開く日程を想定する。
民主党政権の首相がオバマ大統領にワシントンで会うのは初めてになる。
米側は個人的関係で菅首相を招請したのではない。
大震災と原発事故後、日本への接近を強めた中国やロシアを意識し、日米同盟を米国の首都で誇示する狙いだ。
「退陣表明した指導者と会談する利点はないと米側は考えるだろう」と政府高官は危惧する。
前原誠司前外相グループの幹部は「退陣させて野党との新たな枠組みをつくらなければ、政策は一つも進まない」と語る。
首相の責任は重い。
緊張が続くが、新たな権益の獲得で石油の安定供給を確保するとともに、経済関係を強化する。