冷戦時代の「経済大国ニッポン」と貧民国家だった中国――川口氏が語る高山正之の真価と世界情勢の激変(2024/06/19)

冷戦期、日本は“出すぎた経済大国”、中国は“貧民大国”だった時代から、世界秩序が激変した現在までを川口氏が回想。ドイツ報道の欺瞞、尖閣危機への無関心、EU崩壊の兆候、米露の暗躍を指摘。高山正之氏の洞察力を高く評価しつつ、「10年後に生き残る国」を問う必読のまえがき。

アメリカとソ連が対峙する冷戦構造の真っ只中で、日本は出すぎた「経済大国」としてバッシングされ、中国は単なるアジアの「貧民大国」だった。
2024年06月19日

以下は下記の本の共著者である川口さんの「まえがき」からである。
川口さんの高山正之に対する評は、私を含めた多くの人たちが、高山正之に対する評と全く一緒である。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。
 
「川口さんは、以前はもう少し親ドイツ的だったよ」と、最近、高山正之氏に指摘された。
確かにここ10年、ドイツのニュースを克明にフォローするようになって以来、その信憑性に対する疑いがどんどん膨らんできた。 
ドイツでは、公か私かを問わず、常に建前と本音の差が著しい。
しかも、建前がことのほか立派なので、素直な日本人はコロッと騙されてしまう。
私も以前は素直だったので、そこらへんはよくわかる。 
そういえば、フォルクスワーゲンの排ガス不正ソフト事件などは、ドイツ人の本音の部分が図らずもばれてしまった例だ。
これだって、露見しなければ、「環境保護を重視してクリーンディーゼルを完成させた優秀なドイツの技術」で収まっていただろう。
ドイツ人にもときには失敗がある。 
最近、いちばんショックだったのは、尖閣諸島の周りに中国船が何百隻も押し寄せているのに、日本のメディアは嬉々としてリオのオリンピックの報道に明け暮れていたことだ。
ドイツでもオリンピックは大きな話題ではあったが、だからといってほかのニュースが隅に押しやられたわけではない。 
私の頭の中では、国防はオリンピックの金メダルよりも重要だ。
そして、尖閣ではその国防が重篤に脅かされている。
なのになぜか日本国民のあいだでは、それが最重要事項とならない。
この「平和ボケ」につける薬はあるのだろうか。
中国だけではなく、日本の軍国主義化を”懸念”している国々は、ドイツをも含め、皆、軍事大国だということを忘れてはならない。 
高山氏が週刊新潮で長年にわたって連載しておられる「変見自在」は、私の大好きなコラムだ。
取材力もさることながら、世界の色々な場所で、それも異なった時問軸の中で起こっている、一見何の関係もないように見える事象を組み合わる手腕、そして、その共通点をあぶり出していく分析能力がすごい。 
ふつうの人が知らない歴史もざくざく出てくる。
大国や大人をボロクソにこき下ろすが、どこかユーモアがあって後味が悪くない。
しかも、モラルを振り回すわけでもない。
このセンスは誰にも真似ができない。
だから、一時、氏がある雑誌で匿名コラムを書かれたときも、読んだらすぐに読者の脳裏に高山氏の顔が浮かび、結局、匿名にはならなかった。 
その高山氏と、対談をさせていただくことになったのは、大変嬉しい。 
私がドイツに渡ったのは1982年。
アメリカとソ連が対峙する冷戦構造の真っ只中で、日本は出すぎた「経済大国」としてバッシングされ、中国は単なるアジアの「貧民大国」だった。
この30数年で、それがなんと変わってしまったことだろう。 
いま、世界は激動の時代を迎えている。
理想を掲げてつくったEUは分解しかけ、中東でも、あるいはEUの東壁あたりでも、いつ戦争が起こってもおかしくない。
その後ろでは、少々ガタが来ているとはいえ、アメリカとロシアがしっかり糸を引いている。
アジアももちろん不穏だ。
こんな「動乱」の中、日本人だけが呑気にオリンピックを見ている。 
本書は、「日・米・独-10年後に生き残っている国はどこだ」という壮大なテーマとなった。
当たるも八卦、当たらぬも八卦だが、高山氏の胸を借りて思う存分、想像力を働かせてみたい。
いずれにしても、すべてを疑ってかかるという私のいまの姿勢は、知らず知らずのうち、氏に影響された部分が少なくないのではないかと、私は密かに思っている。 
平成28年9月 
秋晴れのシュトゥットガルトにて                               
川ロマーン恵美

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