暴走原発正門で涼しい顔の札幌医大教授の良識…週刊新潮今週号から。

原発前で、まさかの、〝スタイル″  黒字化は芥川。

梅の花が満開で、桜もつぽみを膨らませる。キャベツは丸々と育ち、ツクシだって顔をのぞかせるI。これが目下の福島第一原発近くの光景ならば、その中で普段着姿の科学者がマスクも着けずに言うのである。「全く問題ないですよ」。
 
地震の発生から1ヵ月を経て、尚止まらぬ「暴走原発」。東京電力や原子力安全・保安院、さらには枝野官房長官が日々伝える福島第一原発の動向に国民と全世界が注目する。時おり公表される写真は白い防護服にマスクの作業員ばかりで、一層不安感を掻き立てるが、果たして、周辺はどうなっているのか。
 
それを専門の機器とともに、確たる目的を持ち、すぐそばまで行って確認した人物がいる。札幌医科大学の高田純教授(57)である。
 
今回の原発事故の発生で、これは絶対に自分の目で見て、調べなければならないと思いました
 
そう言う教授の専門は「放射線防護学」。一般には聞きなれない言葉だが、放射線を浴びた時、人体がどうなるのか、また放射線をいかに防ぐのかを研究する学問である。
 
広島大の大学院で博士号を取得した後、いくつかの研究機関を経て、95年には母校の原爆放射線医科学研究所の助教授に就任、今に至る。
 
「私はこれまでも、チェルノブイリやカザフスタンのセミパラチンスク、中国の楼蘭など、世界中の核事故、核実験のあとを実地に調査してきました。多くの研究者が机上に終始するところを、私は実際に現場で放射線量や被曝者を調べ、研究を深めてきました」
 
ゆえに、今回の福島第一原発の現地調査は、新たに得た研究フィールドのひとつである。その調査とはどんなものだったのだろうか。

「4月6日に特急列車で札幌を発ち、バスを乗り継ぎながら道中の放射線量、さらにはどのような放射性物質があるかを調べてきました。
8日に仙台、10日の2日間で福島を見ましたが、結論は、やはり私の予想したとおりでした」 と言う高田教授の調査結果は、放射能に怯え暮らす人たちにとって、実に意外な〝現実″だった。
 
「まず北海道と青森、こちらについては、福島第一原発による放射性物質は確認できませんでした。岩手の北上市あたりから少しずつ、検出されるようになりましたが、仙台市内でもO・0002ミリシーベルト。もちろん人体に影響のあるレベルでは全くありません」

小数点以下にゼロがいくつも並ぶ数値に、緊迫感はないが、教授もまた、ミリの1000分の1、〝マイクロシーベルト″を用いてリスクを語るのはナンセンスだと指摘する。だが、いよいよ福島に近づいてきてからが、冷静な判断と知識が求められる現場となる。

今回。高田教授が使った測定機器は、もちろん普通のガイガーカウンターだけではない。「アルファ線検知器」とか、〝国産車1台分の値段″という「カンマ線スペクトロメーター」など。緻密に周囲の放射線を監視しながら調査は進んだ。
 
福島市から二本松市、葛尾村……。福島第一原発を中心に描かれる〝同心円″を外から徐々に狭めてゆき、いよいよ、退避圏内20キロ。浪江町に差し掛かる。
 
「浪江町のある地点では毎時O・017ミリシーベルトでしたが、これは24時間そこに立ち続けても、O・4ミリシーベルト。宇宙ステーションで暮らす飛行士が受ける1日の量が1ミリシーベルトですから、もちろん問題なしです」

100ミリシーベルトを浴びて初めて発ガンリスクが高まるといわれるのを思えば、ずいぷんと桁が違う現実。
 
そして〝原発城下町″の双葉町、大熊町に入って行くのだが、ここでの測定値も、実のところ浪江町と大差はなかった。
 
「みんなチェルノブイリと混同しすぎですよ。チェルノブイリは日本の軽水炉と違い、燃料棒が格納容器の中になく、周りは黒鉛。そのために黒鉛が発火して、大惨事になった。福島の場合、地震で緊急停止した時点で、すでに核反応は止まっており、あとは冷えてゆくだけ。冷えるにつれて、放出される放射性物質も減ってゆくんです」

…後略。

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