現場の「実践知」生かせ…野中郁次郎一橋大学名誉教授。今朝の日経新聞1面から。
黒字化は芥川。
-原子力発電所の事故で、政治のリーダーシップに不安が強まっています。
「政府の対応には哲学が見えず、現実を直視するという姿勢も欠いている。リーダーにとって重要なのは現実と向き合う力だ。データが十分ではない段階でも、現実を深く見つめて未来を語らなければならない。日本には社会全体として傍観者的に発言することが知的であるという風潮がある。しかし、これほど『反知的』であることはない」
「第2次大戦時に英国首相だったチャーチルは有能な人材を抜てきし、リアルタイムで情報が入る態勢を整えた。変化のただ中で現実を深く考え、演説も人任せにせず自らの言葉で語った。中国共産党にもイデオロギーだけでなく、徹底した現実主義の側面があることを忘れてはいけない」
発信力が足りず
-世界の目線が徐々に厳しくなっています。
「原発事故で日本ブランドは地に落ちてしまった。問題の根っこにあるのは原子力をめぐる閉鎖的な体質だ。政府や東京電力など情報を持つ組織が内向きで、外に向けた情報発信が十分にできていない。原発は安全保障や外交にも関わる問題だが、民主党政権にはその意識が乏しかったと言わざるを得ない」
「各国とのネットワークも構築できていないのではないか。首脳レベルなどで率直に話ができれば、問題の解決に向けて早期に世界の知を結集することができたはずだ。失敗から学び取ったものを世界に向けて発信するという責務もある」
―企業のおり方も変化を迫られそうです。
「現場よりも分析を重んじる米国型の経営が勢いづく中で、現実を知り抜いた人が日本企業の組織の中心に少なくなっていた。その意味で企業組織が全体として脆弱になっていたことは否めない。ただ、震災でわかったのは、企業の現場には実践を通じて培われた『実践知』が失われずに残っていたことだ」
「現場では即興の判断を迫られ、考え抜く中でヒーローが生まれている。私は日本企業の社外取締役も務めているが、現場力は失われていない。そして、これからの企業には単なる現場主義にとどまらず、大局的な視野をいかに取り入れていくかが重要になる」
「政治が頼りにならない以上、企業人もステーツマン(政治家)としての自覚を持つ必要がある。日本の企業や社会には全体の利益を考える「共通善』のDNAがあり、震災という未曽有の危機でそれが発揮されることを期待したい」
地域も積極関与
ーこれから日本が目指すべき方向は。
「現場からイノベーションが持続的に生み出される共同体を目指すべきだ。そのためにも国や企業が外に対して開かれていることが何よりも重要だ。閉じた社会では知の結集ができないはかりか、すでにある知識も陳腐化してしまう。改めて知識国家をつくり出していく覚悟が求められる」「災害復興の視点にとどまらず、持続的な成長をいかに実現するかも問われている。
ケインズ型の公共投資による復旧では、本当の意味での地域再生に結びつかない可能性がある。復興のプロセスに地域も深く関与すべきだ。震災後に地域のリーダーが自然発生的に現れており、こうした人々と連携する必要かおる。住民の意向を大事にして、産官学民の知を結集し、新たな地域の姿を世界に発信していかなければならない」
(聞き手は渡辺康仁)