中西輝政を右派の論客であると決めつけずに読んで見た。

芥川の論の正しさを際立たせるものとして御紹介したい。

月刊誌WEDGEは、毎号、良い論説を掲載している雑誌であることは御存知の方も多いと思う。

国家観喪失が招いた危機…WEDGE1月号から。中西輝政(京都大学教授)

20年前から世界の焦点は中国だった

…前略。

アメリカ国防総省にネット・アセスメント局(Pentagon’s Office of Net Assessment)という部局がある。概ね20年以上先の超長期的な世界秩序の変動を、主として歴史的なアプローチから予測し、アメリカの国家戦略形成の一翼を担っている重要な部局である。

2000年代初頭、私は同局出身者から「(ネット・アセスメント局は)今はもう中国の人口問題しか研究していない。宋や元の時代の人口移動や人口構成、なぜ明が人口問題で滅んだかといったことを朝から晩まで議論している」という話を聞いたことがある。

アメリカの戦略中枢は「9・11」が全世界を揺るがしていた中、「次の時代は中国が焦点である」ということを決して見失っていなかったのである。

アメリカだけではない。イギリスやオーストラリア、ドイツやフランス、ロシアといった欧米の主要国、さらにアジアではインド、シンガポール、ベトナムといった国々が、1992年の郵小平の「南巡講話」以降、中国の膨張が世界秩序の大テーマであることをはっきりと認識し、長期的戦略を持ち始めていた。

…中略

すでに冷戦終焉前の80年代後半に私は、このネット・アセスメント局の名物分析者であるアンドリュー・マーシャル氏との対話から、次のような認識をはっきりと持つに至っていた。「歴史的に見て、世界秩序の構造として一極覇権は成り立ちえない。万一成り立ったとしても非常に不安定でリスクは大きく、崩壊した時に、大きなカオスをもたらす」とー。

つまり、アメリカの国家戦略中枢が自ら、アメリカ一極の時代が長期にわたって続くとは考えておらず、ただ「できるだけ長く引き延ばす」ことだけが目標たりうる、と見ていることがわかったわけである。

そして「冷戦の終焉」が喧伝されていた頃、私は日本に帰り「早晩アメリカの覇権が後退を始め、多極世界に移行する」とし、その時に備えて、日本は国家体制と戦略の根本的な再検討に入らねばならないと訴え続けたのだが日本ではまさに「荒野に叫ぶ声」であった。それゆえ今日、「もう遅すぎるのでは」という懸念が、現在、私の中に遺憾の念と共に残っている。

いずれにせよ、世界秩序の大きな構図はいま、まさに私の予想した通りの変動の道を辿っており、12年はむしろ多極化した世界の「結果」が、より一層明確に現れてくる年となるはずである。

国家戦略は、まず長期のシナリオを描き、焦点が定まれば、時々のマイナーな修正はあっても、答えは自ずと出てくるものである。長年にわたって「世界秩序の主宰者」であった欧米は、常にそうした意識的な国家戦略策定の営みを行ってきた。

その思考があれば、国家戦略の大きな方向は、この20年の日本のように時々のイシューで関心を乱反射させてはならないことはわかったはずだ。アメリカは今世紀に入り、テロとの戦いやイラク戦争などの対応に追われた時期もあったが、「強大化する中国を抑止する」という、その国家戦略の根本はこの20年間まったく変えず、今回の「オバマ・ドクトリン」の宣言へ向けて、着々と準備を重ねてきたと見るべきである。

…中略

…続く。

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