見えない資産 磨け ニッポンの企業力…日経新聞1月20日1面より
…前略。
だが2つのハンディを抱える同社が、M&A(合併・買収)市場では高い評価を受けている。「どうやったら出資できるのか」「キーパーソンに会いたい」、事件直後から外資系投資銀行のM&A部隊の電話は鳴り続けた。
各国の病院に人脈
ソニーやパナソニックの国内勢だけではない。独シーメンスや米ゼネラルーエレクトリック(GE)。内外の巨大企業が目の色を変えるのは、オリンパスの「見えない資産」を手に入れたいからだ。
見えない資産の正体は内視鏡を「売る仕組み」だ、胃や大腸の検査に使う軟性内視鏡で世界シェア7割以上を占めるオリンパスは、各国の病院に太い人脈を張り巡らせている。実際に手術で内視鏡を使う医師にはオリンパスファンが多い。
理由はサービスカにある。繊細な内視鏡は故障対応だけでなく常に微妙な調整が必要だ。オリンパスのサービス要員が各国の医師の細かい要望に応える。
例えば中国には上海を中心に31力所の拠点を持ち、約800人のサービス要員が全土を駆け回る。拠点は内視鏡の扱い方を教えるトレーニング施設の役割も兼ねる。
トレーニングを受けた医師が、他社製の内視鏡に乗り換える例は少ない。人脈やサービスカ。こうした仕組みは財務諸表に載らない「見えない資産」。逆風下でも劣化しない。
…中略。
今、世界のIT(情報技術)業界が固唾をのんで見守る新たな「仕組み」がある。スマートテレビだ。
ネットから番組や音楽、ゲームを取り込めるスマートテレビは、携帯音楽端末、スマートフォン(高機能携帯電話)に次ぐ第3のデジタル革命とされる。
そのビジネスモデルをつくろうとしているのは米国のアップルとグーグルだ。両社はテレビの米三大ネットワークなどと番組配信条件を巡る交渉に入った。音楽配信と同じようにスポーツ中継や映画、ニュース番組を自在に配信する。その仕組みをつくった企業がスマートテレビというまだ見ぬ巨大市場を制する。
かつては得意分野
携帯音楽端末「iPod」で一世を風靡したアップルの功績は革新的な端末を開発したことではなく、楽曲のネット配信に後ろ向きだった音楽業界を説き伏せて「アイチューンズ」という仕組みをつくり上げたことだ。
…中略。
世界を巻き込む「仕組みづくり」の遺伝子がよみがえれば、日本の製造業は再び躍動する。(敬称略)