十字軍物語から今を見る…日経新聞1月22日2面より
…前略。
1993年にハバード大学のハンチントン教授は「文明の衝突」で、儒教とイスラム文明の結びつきを指摘した。キリスト教に基づく西欧文明と儒教イスラム連合との2極対立の示唆でもあった。
2010年のノーベル平和賞が中国の人権活動家、劉暁波氏に決まった時、ハンチントン説を思い出させる展開があった。第一に、反発した中国が「孔子平和賞」を創設した。孔子は儒教の祖である。
第二に、中国、ロシア、カザフスタン、チュニジア、サウジアラビア、パキスタン、イラク、イラン、ベトナム、アフガニスタン、ベネズエラ、エジプト、スーダン、キューバ、モロッコ、スリランカ、ネパールの17力国が、この年のノーベル平和賞授賞式に欠席した。半数以上がイスラム教国たった。
逆の動きもある。昨年の「アラブの春」の結果、少なくともチュニジアは変わった。また東洋思想に詳しい外交官の兼原信克氏は儒者のひとり孟子の「敬天」思想に注目する。
孟子は、天は仁政を敷くために権力者に天命を下すが、民を慈しまず苦しめる権力者は天の命を失い匹夫に戻るので、廃位してかまわず、場合によっては誄殺(ちゅうさつ)も認める、とする。ジョン・ロックから発する西欧流の「法の支配」と変わらない、と兼原氏は考える。
中国も北朝鮮も仁政とは遠い。そう考えれば、中朝両国を儒教国家とみるのは俗説となる。(特別編集委員 伊奈久喜)