政策小出し、傷口広げる ユー口圏は「日本化」するか…日経新聞1月29日3面より
…前略。
「奉加帳方式」という言葉をご記憶だろうか。1990年代の日本の銀行・ノンバンクの救済で多用された手法で、当局の行政指導のもと、金融機関が「自発的」に債権放棄などの支援に応じることだ。銀行は株主代表訴訟のリスクにおびえながら、最後は「信用秩序維持」という大義名分で協力に応じた。
この奉加帳が最近は欧州でまわっている。難航するギリシャ政府と民間投資家の債務削減交渉。ギリシャ支援への税金投入に怒る国民をなだめるためドイツが持ち出した。
民間債権者に「自発的」な債務削減を促す案が昨夏に浮上してから、ギリシャ以外にも広がるのではないかとの不安から各国の国債が売り込まれた。危機の連鎖に驚いたメルケル独首相は昨年末、「債務削減はギリシャだけ」と市場をなだめざるを得なくなった。
ユーロ圏にはもっと大きな奉加帳もある。ギリシャなどを支援する欧州金融安定基金(EFSF)はユーロ加盟国が共同出資する国ベースの奉加帳だ。ドイツなど高格付け国からは「なぜ我々が南欧の不始末の尻ぬぐいをしなければならないのか」と不満の声があがる。
ここでも日本の90年代の記憶がよみがえる。住宅金融専門会社(住専)破綻処理への公的資金投入に国民は怒り、野党議員は国会で座り込みまでした。
「信用秩序維持のための税金投入」の理屈は専門家は理解しても一般国民にはわかりにくい。ドイツがユーロ圏共同国債など抜本策に動けないのは、国民に納得させるのが難しいからだ。
金融・経済危機が長引けば政治も不安定になる。バブル崩壊後、日本では首相がくるくる交代した。ユーロ圏でも11年はギリシヤ、スペイン、イタリアで相次ぎ指導者がかわった。
今年はフランスでも政権交代が起こる可能性がある。怒れる国民を前に政治指導者は立ちすくみ、対策はその場しのぎの小出しになり、問題解決がますます遅れる悪循環が起こる。
…後略。
(欧州総局編集委員 藤井彰夫)