危機に強いぞ高潔な異物…朝日新聞1月29日13面より

スピノザが来た  本社編集委員 鈴木繁 

我思いつつあり

…前略。 文中黒字化は芥川。

國分功一郎『スピノザの方法』(みすず書房・5670円)は、近代哲学の祖デカルトと対比して論じた意欲作。
「我思う、故に我あり」-デカルトの方法は、どんな愚者にも疑いえない「私」の認識から出発する。精神と肉体を分けるその方法論は、科学の発展を支え、近代文明を加速した。

「我思いつつあり」-スピノザは精神と肉体を分けない。彼の哲学では、方法はたどると同時に出来る道。それは自分の中にある。「誰も自分で考え、その道を見つけるしかない」と國分さんはいう。現代人には、のみ込みにくい方法でもある。

…中略。

05年刊行の新書、上野修『スピノザの世界』は6刷まで版を重ねた。上野さんはネグリと異なり、スピノザの突出したアンチヒューマニズムぶりに注目する。「人間を、神の力のローカルかつ必然的なあり方、と規定したところが面白い」

神から人間臭さをはぎ取って、ニーチェやマルクスに影響を与え、人間の本質に「衝動」や「欲望」を見て、フロイトに先んじたことは間違いない。独ロマン派からは「神に酔える神秘家」(ノヴァーリス)と、妙な褒められ方をしている。

底知れぬ哲学の主は、高潔なひととなりが伝えられ、つましい暮らしをレンズ磨きで支えたと言われる。近年、レンズと原始的な撮影装置を介して、画家フェルメールとの交流の可能性が取りざだされてきた。

昨年暮れに出た『フェルメールとスピノザ』の著者は、「天文学者」として描かれた人物をスピノザと重ね合わせている。

…後略。

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