広報文化外交 逆行する日本の組織統合…朝日新聞2月3日15面より

慶応大教授(アメリカ研究、文化政策) 渡辺 靖

中国や韓国を含め、世界の主要各国がパブリックディプロマシー(広報文化外交)を大幅に拡充している。政府要人同士による伝統的な外交とは異なり、人物交流、文化外交、政策広報、国際放送などを通して国際世論を味方につけ、国際社会における課題設定や規範形成を自国に有利な形で進めることがその要諦だ。

ソフトパワー外交といってもよい。軍事力や経済力などのハードパワーが依然、国際関係を動かす力として重要なことは言うまでもないが、軍事力行使の政治的リスクや社会的コストが上昇しているのも確かだ。

経済力に関しては、多極化と相互依存が進むなか、特定の国家が覇権的な影響力を握ることはますます難しくなっている。もはやハードパワーのみが現実を構築していく時代ではない。

政治や経済の低迷が国際社会からも懸念される日本にとって、ソフトパワー外交の強化は死活的に重要なはずだ。しかし現実には、大きく逆行している感がある。

例えば、野田政権では、外務省所管の国際交流基金と国土交通省所管の国際観光振興機構(JNTO)の統合構想が浮上。国際協力機構(JICA)や日本貿易振興機構(JETRO)を含む4法人の海外事務所も統合する案が検討されている。

いずれも今夏までに結論を得る方針だが、「国際」と名のつく組織を束ねることで「無駄」を削減しようというわけだ。しかし、海外か国内かといった二分法が廃れつつあるグローバル化の時代にあって、これはいかにも時代錯誤の発想ではないか。

外交の舞台では、文化交流機関であるがゆえに相手国当局から活動を認められているケースも少なくない。貿易・投資振興や観光まで一つの組織として海外で活動する場合には、大きなリスクを伴うことになる。

いまだ世界に数多く残る権威主義国家で何かあった際には、すぐさま活動中止を求める口実を容易に与えることになりかねない。こうした外交の機微を犠牲にしてまで、拙速に統合を進めている主要国は存在しない。

政府の一連の動きを見ていると、広報文化外交の重要性に対する認識に乏しく、ソフトパワーといっても、せいぜい「クールージャパン」という名のコンテンツ産業振興や観光客誘致程度にしか議論が追いついていない知的貧困を反映しているかのようだ。

なるほど、統合策は消費税増税の「理解」を得るための政治的パフォーマンスとしては好材料なのかもしれない。しかしそうした内向きの発想は、他国の広報文化外交に携わる人だちから嘲笑されかねないことを忘れずにいてほしい。

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