日本は経常赤字に陥るか…日経新聞2月5日9面より
財政再建、緊急度高まる 菅野氏
円高活用、海外へもっと 吉崎氏
双日総合研究所副所長 吉崎達彦氏
よしざき・たつひこ 84年(昭59年)日商岩井(現・双日)入社。91年米ブルッキングス研究所客員研究員。04年から現職。51歳。
JPモルガン証券 チーフエコノミスト 菅野雅明氏
かんの・まさあき 74年(昭49年)日銀入行。97年日本経済研究センター主任研究員。99年から現職。主に調査畑を歩む。62歳。
…前略。
ところが円高と世界景気停滞で、輸出の大幅な伸びは今後期待できない。原子力発電の操業度低下を補う火力発電のために、液化天然ガス(LNG)の輸入数量の伸びは、年率45%に達している。こうみると、輸出から輸入を差し引いた純輸出の数量は、国内総生産(GDP)比で年1%の伸びが精いっぱいだ。
一方、資源価格の上昇などで、輸入価格に対する輸出価格の比率である交易条件は、過去10年間平均並みの年5・5%の悪化を見込んでいる。海外投資からの利子・配当など所得収支によって、今のところ貿易赤字がカバーされているが、世界的な低金利で所得収支の黒字も頭打ちだ。このため3年後には経常赤字が到来する。
吉崎 世の中は31年ぶりの貿易赤字と大騒ぎしているが、これは暦年ベースの話。年度ベースではりーマンーショックに見舞われた08年度にも貿易収支は赤字になっている。
01年ごろに貿易赤字への転落が騒がれたが、02年以降は黒字が増加した。商社の集まりである日本貿易会は、マクロモデルではなく、個々の商品の積み上げで予測を組み立てている。
ミクロの積み上げ方式でみると、12年度の貿易収支は4兆円の黒字に戻る。輸送用機器、一般機械、電気機器など主力輸出品目は12年度にはそろって回復する。
そのほか、食料品輸出は震災による風評被害で11年度は前年度比1割の減少が見込まれるものの、12年度には増勢に転じるとみている。経常収支の黒字幅は16兆円と11年度に比べて拡大する。
――自動車、電機などの輸出競争力を過大評価していませんか。
吉崎 日本の輸出は自動車、電機ばかりでない。12年見通しで輸出総額約70兆円のうち、自動車は9兆円、電気機器は12兆円で、両者を合わせても全体の3割にとどまる。円高を克服し色々な業種が伸びており、12年度は例えば一般機械が5%近く増える見通しだ。自動車メーカーも強気の増産計画を立てている。
菅野 問題はすう勢的な海外生産比率の上昇だ。大手自動車メーカーの場合、その比率は03年に49%だったが、11年には68%となり、14年には76%に上昇する見込みだ。
電機業界では、円高対応として海外からの輸入を増やしている。日本を代表する二大産業の純輸出に対する寄与度が低下していることの持つ意味は深刻だ。化学、鉄鋼などの素材産業は韓国など新興国との差別化が難しい。
吉崎 確かに海外生産比率が高まると、生産調整する際に海外では調整しにくいので国内にしわ寄せされるといった面はある。ただ国内のモノ造りの基盤が消失してしまったというようなことはない。
問題はむしろ売れ筋の商品をどう提供するかだ。韓国製の家電は日本では売れなかったが、スマートフォンでは韓国製品の浸透が著しい。かっては電気機器輸出の代表選手のひとつだった通信機は、今では輸入が輸出の約4倍にもなっている。カギを握るのは、企業ベースの努力だろう。
…後略。