大機小機 PTSDの陰で…日経新聞2月17日17面より
財政難、貿易赤字、人□の減少、電機大手の赤字転落、ユーロ危機。円本経済を取り巻く環境はとても暗い。
人間性とことん痛めつけられるとそのあと長いあいだ正常な反応をしなくなる、感受性は鈍り、物事への関心は薄れ、建設的な末来が描けなくなる、これを心的外傷後ストレス障害(PTSD)と呼ぶ、今の日本経済はこのPTSDにかかっている、傷ついたのは20年前。
バブル崩壊で企業は大量の余剰設備を抱え、社員は余り、巨額の借金が残った、銀行や証券会社の資本は傷つき、次々と破綻した、企業も銀行も臆病になり、ひたすら守りに回った、不良資産を償却し、人を減らし、利益が出れば債務返済に回す。
バランスレート調整だ、傷ついたストックをフローの稼ぎで修復するのだから何年もかかって当然だ「失われた10年」と呼ばれ、最近では「失われた20年」と呼ばれている、過去20年の年平均実質成長率は1%、長期停滞はこれからも続くと誰もが思っている、歌を忘れたカナリアだ。
だが、もう少し注意深くみると、その間に実は本質的な変化が起きている、ポイントは2004年前後だろう、この頃までに企業のバランスシート調整は終わった。企業や金融機関の体質強化はその後、思っている以上に進んだ。遠くからながめてみるとよくわかる、全国銀行の不良債権は10年前には40兆円を超えていた、今や4分の1の水準だ。
企業全体の借金も減り続けフローでみると10年以上も資金余剰部門になっている、つまりリスクを取ろうと思えば取れる体質になっている。変化の兆しは所々にある。最も目立つのが海外での日本企業の動きだろう、M&A(合併・買収)助言のレコフによると昨年の外国企業を対象にしたM&A金額は前年比67%増と激増。
邦銀の対外融資残高も昨年末で同30%増と急増中だ。はるか前を走っていた欧米の金融機関がリーマンショックやユーロ危機で傷つき、元気をなくしているからだ。日本勢に対し事業や融資を肩代わってくれと“助け”を求める声は引きも切らない。
財政政策も金融政策も手詰まりで、もはや頼りにはならない。企業は脇を締めながら虎視耽々(たんたん)と獲物を狙う時だろう。ケインズの言つアニマル・スピリットが一部ではあるが姿を見せ始めている。(横風)