小春日和の12畳の部屋で…。
小春日和の12畳の部屋で、母親が私に話した事というのは私も何度か聞いていた、彼女のお得意先であった大企業の仙台支店長夫妻が、どうしても子供が出来なかった。
それで、ある時…そのご夫妻が我が家に来た事があるのである。
魚釣りか何かで。
私をどうしても欲しいと母親に所望したのだそうだ。
母親は、私にはその方がいいのかなと心底思いながら、どうしてもYesとは言えなかったのだと、私に告げたのだった。
私は、実に複雑な気持ちで、その母親の話を聞いていたのだった。
何度か言及してきたように、学問を極める為に、あるいは芸術の為に生まれてきた者や、あるいは釈迦やキリストの生まれ変わりとして生れてきた者には、本来、苦労は不要なのである。
学問に苦労は不要なのだ。
その苦労の為に、40年も苦闘して、ビジネス人生最後に、これ以上ない悪党に遭遇して大変な目に遭ったのだから、なおさらなのだ。
私は、夢か現の境目で、その仙台支店長ご夫妻の養子として、人生を送っても良かったのかな、と思っていたのだった。

2012/4/1、天龍寺にて。