続き…。
取り調べ検事も、私が、「賄賂のつもりはありませんでした」といくら容疑を否認しても、初めに結論ありきでした。「お前は有利な取り計らいを受けようと思っていたはずだ!ウソをつくな!」 と怒鳴り、黙秘すると、たびたび「壁に向かって立て」と命じられました。
「もっと壁に寄れ!目をつぶるな、バカヤロー!馬鹿にしてんのか!
オレを馬鹿にすることは国民を馬鹿にすることだ!」
「オレに向かって土下座しろ!」と土下座を強要されたこともありました。113日間、独居房に入れられ、連日厳しい取り調べを受けていたため、保釈直後は寝汗をかいたり、突然震えがとまらなくなったりすることもありました。
…政治家の逮捕がレゾンデートル…
取り調べ検事はよくこんなことを話していました。
「調書が作成できないので、ヘッドクォーターからしかられているんだ。ヘッドクォーターは、鬼の吉永(祐介・東京地検検事正)と検事の間では呼ばれていて、とても怖い人なんだよ」 「主任検事も言っておられたが、君はこの調書に署名すれば早期保釈されるんだ。ここは主任検事に敬意を表して調書作成に協力してもらいたい」
そういったやりとりの末、私は長期勾留の苦しみから逃れたい思いで、意に反して、検察の筋書き通りの調書に署名してしまったのです。
この経験で学んだのは、検事というのは真実を明らかにするというよりも、上司から命じられた検察の筋書きにあった調書を忠実に取る役割を持つ人であるということでした。そして、現場の検事はそのために非常に苦労していました。
今回の村木厚子厚生労働省局長の事件での証拠の改ざんも、検事個人の問題というよりも、改ざんせざるを得ないところまで追い込む特捜の上意下達のシステムに原因があると感じます。
さらに、一般の役人もそうですが、それ以上に検事は上昇志向が強い人たちの集団だと感じました。
村木さんは無罪が確定しましたが、この事件では、民主党の石井一参院議員の名前が報道によって取りざたされました。村木さんは石井議員を有罪にするための足がかりに過ぎなかったとも報道されましたが、リクルート事件でも、未公開株の譲受人が、秘書を含めビッグネームの政治家であったことが特捜部の立件への思いを強くしたのだと思います。
私の著書『リクルート事件・江副浩正の真実』(中央公論新社)にも書きましたが、実際に、取り調べ検事から、「これだけマスコミに書かれると政治家を立件しないわけにはいかなくなった。自民党2名、野党1名あげたい」と言われたこともあります。私か、「野党とか与党とか関係あるんですか?」と尋ねると、“中立的”という世間の印象も大事なんでね」と話していました。特捜には不思議なバランス感覚があると、思ったものです。
特捜は大物政治家を有罪にすることによって社会正義を果たすことが自分たちのレソンデートルを高めると信じ込んでいると思います。
田中角栄元首相が逮捕されたロッキード事件も同じ構図だったのでしょう。
確かに、リクルート事件がきっかけとなって、企業献金に関する制約は非常に厳しくなりました。しかし、その一方で、中曽根康弘先生や安倍晋太郎先生、宮沢喜一先生など力のある政治家が要職を追われ、政治空白が生まれました。消費税(間接税)の導入に影響を与えたことも事実です。