蜃気楼。
何故、僕は週刊朝日を買って読むべしと何度も言及するのか…少なくとも、この週刊誌の発行部数が100万部なければ、日本は真の民主主義国家だとは、とても言えないのは、今、歴史的に証明されている事…それは、今、僕より10歳下から若い人たちに大人気の作家たちの本を買って読む事よりも、ずっと、大事な事だと僕は断言しても良いし…その発行部数に成れば、寄稿者たちへの原稿料もアップして、愈々、彼らの筆致も冴えてくるからです。
さて、今週号の読書欄を読んでいて、へぇーと思った事…上記の作家たちの中の多くの者が、ギリシャのロードス島に滞在して大ヒット小説を書いたり…仕上げはローマらしい…していること。
先日、弊社専務と…弊社の歴史を共に歩んでくれた戦友です…現状のままで行つた場合の、私たちの老後の生活を計算してみた…お互いに20数万円で、毎月を過ごさなあかんな…毎日、スーパー銭湯へ行くとして回数券で一回600円、地下鉄代金は往復で640円(定期を買えば少しは安いか)等々…しみったれた(笑)話をしていたのだった。
その様な状況で芥川は書き続け、彼らは、世界に名だたる観光名所に滞在して、日本の満ち足りた男女たちの今に相応しい感性…多分、散りばめて、次から次と大ベストセラー…等と苦笑したのでした。
ただ、僕は思うのですね…既述した様に、僕が読書を止めて…ル・クレジオが言った様に、本は、読んだらバケツの中に捨てるのだ…そして自分の人生を生きるのだ…を実践した訳ではなく、既述した…日本の宝物である大人(たいじん)たちや、世界の本物たちの魂はしかと受け継いで…生きて続けて来た僕の人生の中で、
今を時めく作家の事を目の前で口にした人間は一人しかいなかった…僕より15歳は年下の…当時は大企業社員だったが…僕が行きつけだった北新地のカウンター割烹の店で…御馳走した時に…若い女性二人を連れて来た…○○○○は良いよね、と、彼は若い女性二人に話していた…その後でOと言う俳優までほめそやした時には…オイオイ、それはないだろう、と内心思いながら、僕は手持無沙汰に一人、酒を飲んでいたのだが。
彼は、関西人が言う所の、良い格好しいでもあるが…ファッションセンスも見事な、良い男だった…本当の紳士なのだが…ただ、僕の一生の親友たちとは違って…とことん現実追従型なのである…僕は断言しても良いのだが、彼は絶対に現状に対して命がけで異議申し立てをしたり、変革したりするタイプでは無い。
世界最高のセンスに成った東京や大阪…豊かに成った日本を満喫し、その風景の中で、恵まれた10%の層に居る自分を愛しているのである。
今の日本の若く美しい女性たちは…東京には男に負けない高給取りも一杯いる訳ですが…大半は一生働いて年収300万円台だけど、世界有数に豊かに成った国で、美しくなった女の特権で、心も気分も生活スタイルも、感性も…10%の富裕層と全く一緒なのである…大半の食事は、この10%の層が…最高級レストランや穴場の店etc.に、何時でも連れて行ってくれるし…果ては豪華海外旅行御同伴だって日常茶飯事だし…一人でも、世界中の観光都市へ何時でも行けるし…現に、信じ難い海外旅行歴の御嬢さんは無数に居るのである。
けれども、僕は思うのだ…例えば、僕がこよなく敬愛している…アンリ・ミショーは、飛行機ではなく船の時代に、フランスから東洋を旅して、日本中もくまなく見て回り…「アジアにおける一野蛮人」という本を書いたり、
同様に、長い船旅をものともせず…当時は、今より遥かに辺境であっただろうし、易しい旅ではなかったのは無論…南米大陸の高地を歩き回り…決して余裕のある旅ではなかったと僕は思う…若者のバックパックの様なものだっただろう…そして「キトー」等に代表される…見事な詩の数々を書いた。
僕が、皆さん方の多くが読んでおられるのであろう、作家たちの本を全く読んでいない…これからも読む事はないであろうと思うのは…彼らとは根本的なスタンスが違うからだろう…僕は、日本の民主主義は、いまだ、全く完成されていない…それが「失われた20年」の根源に在る事を知りぬいているからだ。
本当に、日本が嫌になったら…月20数万円で暮らせる国に、移住するかもしれないが。
東京や大阪の素敵な街並みを彩るセンスに溢れた小説を書くだけなら、鼻歌まじりで書けるのは本当だが…僕は、それならば、例えば、日本の山脈、日本の森、日本の川、日本の海が輝く言葉を書く人間なのである。
そこに在った間違いと、それゆえの幼稚性を取り払う為に、神様から、この頭脳を授かったと思っているのです。
日本だけではなく、世界にも、蜃気楼を愛する人は一杯います…ましてや、実は、20世紀型の資本主義の限界が…世界中で…中間層の剥落…今、フランスで学生たちが暴れているのは…その事に対する抵抗=レジスタンスなのです。
御存じの様に、フランスは、人類史上初めて、自らの手で=人民の手で王様を打倒し、民主主義国家を作った最初の国ですから…歴史の節目、節目に、学生や労働者が立ち上がる国なのです。
パリは、芥川も、大好きな街ですが…フランス人は、決して、蜃気楼の中では生きていないのです。