続き。
村木事件作ったブツ読みの天才
これだけでも検察が描いた事件の構図は最初から破綻していたといわざるを得ないのだが、三井の「共犯」として大阪地検特捜部から出頭を求められた亀谷は、自ら大阪地検に向かったという。
その時の様子を獄中手記の中でこう綴っている。
〈(大阪中之島合同庁舎に着き)エレベーターで(特捜部の)指示通りの階に着くと、1人(の職員)が立っていて、その案内で野口副検事の部屋に入った。
正面の机に座っていた野口が立ち、「よく来てくれました」と対応。野口の机の前の椅子に座ると、野口が逮捕状を示した〉
亀谷を逮捕し、取り調べ担当検事となった〈野口副検事〉とは、現在、大阪地検刑事部に勤務している野口幸男副検事のことだ。大阪地検関係者によると、野口は大阪地検の検察事務官を長く務め、その後、副検事になった叩き上げのベテラン検察官だという。
「マスコミは今回の証拠改ざん事件で逮捕・起訴された前田恒彦・元主任検事を 『特捜のエース』などと持ち上げたが、野口こそが『真の特捜エース』だ。
ブツ(証拠)の読み込み方が半端じゃなく、そこから事件を組み立てるセンスもずば抜けている。このため野口は、歴代の特捜部長らから重用された。
刑事部にいても、応援という名目で特捜部に戻ることもしばしば。ただ、ブツ読みの天才ではあるんだが、取り調べはからっきしダメ」(大阪地検関係者) 実は、野口は今回の証拠改ざん事件の舞台となった「郵便不正事件」の捜査にも携わっていたという。
「郵便不正事件で、大阪地検特捜部は三つのルートを狙っていた。『民主党衆院議員ルート』と『東京都議ルート』、そして村木厚子・厚生労働省元局長を無実の罪で立件してしまった『厚労省ルート』だ。
これら三つのルートをいずれもブツ読みで拾い出してきたのが野口だといわれている。
その意味では、今回の村木さん逮捕から始まった大阪地検特捜部崩壊のきっかけをつくった人物ともいえる。
歴代の特捜部長と同様、大坪や佐賀の信頼も厚かったことから、最高検は、彼らから何らかの相談を受けていなかったか、野口からも事情を聴いたようだ」(最高検関係者)
その野口が、三井事件当時、亀谷の取り調べを担当していたのである。
亀谷の手記に戻ろう。
〈野口が(逮捕に際して)「何か言いたいことは?」と聞くので、「わしがTと三井さんに同居(三井が住民票を移動させたこと)を依頼したもので、例えば(Tと三井の)2人が道端で立ちションベンしてもすべてわしの責任や」と返答した〉
いかにも取り調べ慣れしているヤクザらしい受け答えだが、言葉どおりに受け取れば、亀谷は逮捕直後、Tはもちろんのこと、三井をも庇おうとしたようにうかがえる。その亀谷に対する野口の取り調べは当初、極めて高圧的なものだったという。