川崎英明氏に依る、戦前~戦後、検察組成の問題点。
今朝の朝日新聞から。
検察官の役割
警察の監視と公判専従に
関西学院大法科大学院教授(刑事訴訟法)
かわさき ひであき川崎 英明
無罪が確定した村木厚子さんの事件に関する大阪地検特捜部の捜査に対して厳しい批判が向けられているが、その後、事態は主任検事や特捜部長らが証拠隠滅や犯人隠避の罪で起訴される事態にまで発展した。こうした検察の病理現象は、中途半端に終わった戦後の検察制度改革の当然の帰結なのではないかと思う。
戦前の旧刑事訴訟法の下で、検察官は捜査の主宰者として警察官を指揮・命令して捜査に当たらせる一方で、司法部の人事支配を通じて裁判官をも事実上支配していた。まさに「検察官司法」だった。
戦後の司法制度改革の中で、連合国軍総司令部(GHQ)は検察官支配の結果、数々の思想弾圧事件などの人権抑圧的な司法が続いた戦前の歴史を重視して、「検察の民主化」を進めようとした。強大な検察権限を分散し、検察に対する民主的統制をめざした。検察官は捜査に関与せず、法律家として警察の捜査をチェックして、法廷活動に専従する構想を示した。検事公選制や起訴を決める大陪審制の創設も求めた。
これに対して、当時の司法省は警察を組織的に検察に直属させる提案をするなど、検察権限を大幅にそぐような改革には激しく抵抗した。両者の妥協の結果、第一次捜査権は警察に付与しながらも、検察官に固有の捜査権と警察への一定の指揮権を認める現行刑訴法ができた。民主的統制の方は、検察審査会と検察官適格審査会を設置するにとどまった。
現行刑訴法では、検察官作成の供述調書は特別な証拠資格さえ認められた。不徹底な「検察の民主化」の下での運用の結果、現在のような密室での被疑者や参考人の取り調べと検察官が作成する供述調書に依存する刑事裁判の構造ができた。
一連の郵便不正事件の捜査では、脅迫や利益誘導などによる供述の強要が問題になったが、こうした特捜部の取り調べ手法に戦後検察の構造的な病弊が見てとれる。
だが、裁判員裁判や検察審査会の議決による強制起訴などを導入した一連の司法制度改革では、検察改革の視点は希薄だった。今回の大阪地検特捜部の問題を、検察のあり方を国民的に議論する好機ととらえ、戦後司法制度改革の原点に立ち戻って、「検察の民主化」のための改革のあり方を根本的に議論し直してみてはどうか。
例えば、検察官を「市民の訴追代理人」と位置づけ、法律家の視点から警察捜査の結果をチェックして起訴の可否を決め、公判に専従する機関とすることはどうだろうか。その先には、警察を公正な捜査機関へと改革する課題がある。また、市民による検察のチェック強化のために、検察審査会の機能を、現在のような不起訴処分の当否の判断だけでなく、不当起訴に対するチェックに広げることも考えてよい。
黒字化は芥川。