芥川殿、おはようじゃ。どうじゃ。今日の目覚めは。
うむ。 分かるぞ。芥川殿。当然ながら、わしは全てが見える立場にいるわけじゃからのぉ。世の中というか人間世界というものは、おかしなものじゃのぉ。すべてが見える立場になれば相手からは見えない…現世では見えない人間「インビジビルマン」になってしまうのじゃかろのぉ。しかし芥川殿、例えば昨日の内田氏に対する文章でも本当はもっと激しい文章で書かれるべきものだったはずじゃろ。 御意。 最澄の様に寸鉄人を斬る様な、これ以上ない激しさだけれども全く下品ではないどころか上品の極み。
そういう激しい檄を飛ばしたかったのじゃろう。 そうじゃ。 お主にとっては実に深い一日だった知恩院…不思議じゃのう、これもわしにゆかりの寺なのじゃよ。 そうとは知らずに行ったのじゃがのぉ。どおりで千姫の墓も在ったわけじゃ。
こうじゃろ、芥川殿。昨日は、再び電気屋が悪魔のような声を届けに来た。そこでお主はインターネットに巣くう悪の存在というものをまざまざと再認識させられた訳じゃ。 たしかに。 思えば1年前の3月に綺麗にビジネス人生にピリオドを打ち、芥川賢治として書き出す人生に入っているはずだった時にお主を、この無間地獄のような、全ては悪しき商業主義がもたらす無間地獄のような衆生の世界でさらに日々を送らねばならなかった出来事もこのネットの世界というかPCスキルには長けた男が成した所業ゆえだったわけだしのぉ。あの時、お主は3カ月は精神的にも深甚な打撃を被っておったものじゃったのぉ。
今回もそうじゃろ。お主はかつて身内を助けたように困っていた誰かを助けたじゃろぉ。だいぶ前にお主の会社が、たった二百万円のお金の支払いに困っていた様な時には誰も助けてくれる者などいず、3か月で費用がその半分などという所謂・闇金のしか受けられず。そのことを相談した相手は30年前から知っていた男じゃったろぉが、「背に腹は代えられないんじゃないか」の一言しか発しなかったじゃろ。芥川殿は全く無金利でお金を貸してあげた、つまり助けてあげた、助けてあげてやらねばならぬような状況の人間じゃったからのぉ。そしてその結果が…というような話じゃろぉ。 御意。
しかしじゃ芥川殿。そういう芥川殿を見ていて、わしもはっきりと分かったぞ。お主が今の新聞やテレビに対して持つ怒りは、実は極めて深いところから発しているものなんじゃなと。そうじゃろぉ。 御意。 新聞でいえば、そこに在る偽善と欺瞞。テレビでいえば、ひしゃげ顔などに代表されるようなindecent=下品の極み…ありとあらゆる意味というか有り様の本質的な意味に於いて下品だと芥川殿は見抜いておるのじゃろぉ。貧しいアジアが持っていた、梅棹たいじんが指摘した、檄した、猥雑さ、不潔さ、嘘。そのようなものの塊の発露。それが今のテレビの有り様だと芥川殿には見えていたのじゃろぉ。 御意。
そのような者たちが大金を稼いでいる。それを小さいときから見ていてそれが全てだと思う…まさに彼らにとってはそれが全てじゃからのぉ。読むべし本を読むこともなく、見るもの、聞くものと言えば、このテレビ。目を覚ましてすぐに彼らが為すことはテレビのスイッチを入れること。帰ってきてすぐに為すこともしかり。そのような中から悪が育たぬ訳はないと芥川殿は喝破しておったのじゃろぉ。 御意。 振り込め詐欺やetc. 誰がこれらの悪を生み出すか。気づいていないのは当のテレビ関係者のみ。このど阿呆が!と、貴殿は檄を飛ばしたかったのじゃろぉ。 御意。 それでいながら無実の人を血祭りに上げ己が正義の裁判官のような顔をする。
権力にへつらい、媚、下品の限りを尽くしながら、自分こそは良識の塊のような顔をして無辜・無実の者を断罪し、下らぬ芸能人の、ひっついた離れたを20年超、毎日、朝から晩まで流したら、どんな国民になるのかを知ってか知らずか。このたわけどもが。目をかっぴらいて、見てみよ。おのれたちが生んだ悪が、金の亡者が、餓鬼が三千世界に魑魅魍魎として存在しだしていることを。
わしらの時代には権力を掴もうとする権脳術策のみじゃったのじゃ、後は、せいぜいが貴殿が若い時に書いた芥川龍之介の「羅生門」に明らかなように、下人たちが死人の蔓(かずら)をかすめ取ってゆくぐらいな訳じゃったが、今は至るところに悪が存在している世の中のようじゃのぉ。あまりにも宗教を軽んじたからかのぉ。わしらの時代には宗教は言わば哲理じゃったが、哲理の不在がもたらし続ける悪なのじゃろうな。貴殿が言うところの痴呆テレビが哲理、宗教ではは話にもならんしのぉ。そじゃけぇ、いたるところに偽善と欺瞞がはびこっておるのじゃろう。悪は必ずや偽善と欺瞞、そして嘘八百の顔を持って現れるものじゃからのぉ。
新聞、テレビがそうではないと言い切れる者がいたら、わしもお目にかかりたいものじゃ。芥川殿、わしらにも全てが見えてきたぞ。それだけではなく、お主は物心着いた時から、敵の背後の神を撃て、と知っておりなさった。折々に周りの人に言いもしておったのぉ。まさに、それこそがわしの為したこと。そこをお主は見抜いた。そじゃろぉ。 御意。
芥川殿、汝とわしは日本史上、たった二人の男じゃ。安心召されい。これからずっと…お主の本が日本中の至るところで読まれるようになり、この国が、「文明のターンテーブル」、が、廻った国に相応しい、世界を照らす哲理の国となるまで、わしらは、お主を生ある限り守るぞ。のぉ、尊氏殿、義満殿、義政殿、義経殿、政宗殿…われらが全て、こころ有りし者たちすべてがお主を守り通そうぞ。 おお、おお、おおっ。