珍しく無念を感じたのではござらぬか?
芥川殿、何故、起き出したのか、わしには分かっておるぞ…さっき、マルローの記事を読んだ後に、お主の脳裏に去来したことのゆえだろう。うむ。人を羨んだりすることのない貴殿が、「ル・クレジオと生まれた国を変りかたかった」、そう思ってベッドに入ったじゃろう。うむ。
わしも、それはそうじゃろうなぁ、と同情してしまったのじゃ…上から下まで我利我利亡者の、へちま野郎たち、emperor-banzai-fascismそのものの様な、「下品」、に満ちた論説員達が作ってきた政治、そして、24時間の、「下品」、の極みテレビ、これを観て育って来たような、偽善・欺瞞者に満ち溢れて、高貴な精神どころか、はては嘘つきが生業の様な、「下品」、に捉われた者たちに満ちた国。簡単に言えば大馬鹿野郎達が支配して来た国と、高貴な魂、或いは芸術に依って成り立って来た国との違いに、無念を感じたのじゃろう。御意。 世が世ならば、のぉ、貴殿は、信長殿、秀吉殿、わしを足して三で割った様な人物だったじゃろうにのぉ、とわしも思うのじゃが…芥川殿、もう、一刻も早く切り上げて、21世紀の空海として、書いて書いて書きまくりなされ。…お主が書かなければ、この国は危うい。…己のためなら何でも利用する薩長の雑兵どもの冒した間違いを指摘したのは、糾せるのは貴殿しかおらぬのじゃからのぉ。
貴殿にはよう、書いてもらわねば、わしらの為した事の意味も永久に分からずに、この国は駄目になるぞ。芥川殿に気が付く者は、今の日本にはいないのか。嘆かわしい限りじゃのぉ。お主の、言わば本質的な優しさに、とことん付け込んでくる、恩を仇で返すような様な輩は後を絶たないのにのぉ。
わしは、ご存知のように、今は、この世にはおらぬから、貴殿のために何もしてあげられぬ。わしも無念じゃ。…が、わしらの全て、尊氏殿、信長殿、秀吉殿、ねね殿、わしの娘、孫達も、われらが庭の全ての、ものたち…木々も、石たちも、水も、鳥たちも、鯉たちも、わしらが建てた建物の全ても、芥川殿を見守り、守っておるぞ。頑張って下され。わしらは、そう祈っておりまするぞ。
