オリクスとクレイク マーガレット・アトウッド〈著〉…2011年2月20日(日)朝日新聞12面
評者:翻訳家 鴻巣友季子
…前略
人類消滅後の世界で海辺に住む「スノーマン」。ここには「クレイカーズ」という人工生物が棲息する。彼らは疑いや不安を知らず、決まった時期に生殖を行い、プログラム通りに生きる。なぜ世界は滅亡したのか? かつての世界では、選ばれた者と「ヘーミン」が隔離されて暮らし、私生活まで監視されながら健康な生活を送り、やがて不老が実現する。
…中略
信心と狂気の境はどこにある? 幸福や安寧は人を閉じこめる箱庭ではないか? プログラムされたクレイカーズが、それでもなおスノーマンに創造主の物語をせがみ、絵画や音楽を有することに、私はある希望と胸騒ぎを覚える。ディストピア文学に普遍の問いを孕み物語が今後どう発展するか。ノーベル賞候補アトウッドの有力な代表作群になるだろう。