日本語の古典 山口仲美〈著〉…2011年2月20日(日)朝日新聞12面
評者:甲南大学教授・日本文学 田中貴子
…前略
あなたは、源氏物語に造語がたくさん出て来るのを知っているか?「虫愛づる姫君」が漢語をしゃべっているのを知っているか? 『蘭学事始』は『蘭東事始』と言う方がよいということを知っていたか? これ、全部本書の受け売りである。
本書が並の「古典教養書」と異なるのは、「言葉愛づる君」というべき日本語の第一人者が、自らの読書体験で得た発見を瑞々しい感性で語っている点である。硬直した古典観をひょいと飛び越えた、楽しくてためになる言葉の世界が展開してゆくのだ。
読みやすさへの著者の工夫は、それぞれの作品を読むに当たって一つのテーマを設けていることでもわかる。膨大な古典文学を一から読まないといけない、といった気構えが、これですっと消えてゆくだろう。
特筆したいのは、著者の新たな発見の喜びがダイレクトに読者に伝わってくることである。それにより、読者も発見の瞬間に立ち会う喜び(これは学問の喜びでもある)を味わうことができるのだ。まさに、元気な古典入門書である。急け、書店へ。