「ジョゼフ・コーネル、箱の中のユートピア」デボラ・ソロモン〈著〉…朝日読書欄から。

評者:横尾忠則…横尾さんは、ここんとこずっと冴えてるね(笑) 黒字化は芥川。

芸術家の伝記が面白いのは、周囲の人間たちが魅了されるあまり人生が壊されていくからだと著者は描くが、この伝記の主人公コーネルは皮肉にも周囲の人間によってどんどん壊されていく。

…中略

コーネルといえばモダニズムと無縁の象徴主義的な秘境の隠者のイメージが濃く「大人の玩具」作家ぐらいにしか思われていなかったが、とんでもない。シュルレアリスム、表現主義、ミニマリズム、ポップアートと20世紀が駆け抜けた現代美術の足跡を辿る時、そのコアにご神体のように鎮座していたのが実はジョゼフ・コーネルだったことを今や誰も否定しない。

…中略

それも憧れの女性たちには指一本触れることもせず童貞のまま、失意のどん底で悪夢の芸術家コーネルを慰めるのは、「天文台」と呼ぶ彼の家の台所から夜空の星を数える時間だ。自らの存在をあたかも天に属する者と定め、あの世での不死を信じ、自分がこの世から失(な)くなるのをただ待つだけの禁欲の男が僕の脳裏に浮かび上かってくる。

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