「顔のない軍隊」、エベリオ・ロセーロ著…日経読書欄から。

評者:東京大学教授 野谷文昭  黒字化は芥川。

山間の牧歌的な村に住む、今は年金生活を送る元教師のくおれ〉が語り始める。この老人には昔から覗き癖があり、楽しみは隣家の夫人が裸で日光浴するのを盗み見ることだ。ここでは性が生の証になっている。

…中略。

鵺(ぬえ)のような母国の戦争の感触を、著者は巧みに捉えている。顔のない軍隊に欠けているのは想像力だろう。想像力があるからこそ村人たちは恐怖する。悪夢そのものの世界だ。冒頭を反転させた、最後の性と死の光景は、きっと読者を慄然とさせるに違いない。

*鵺の様な人間、鵺の様な状態ほど、まともな人間に害を及ぼすものはないのだ。…何故か?そこは何でもありの世界だからだ。

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