政治家の無能がこれほどこたえたことはない1ヵ月だった。高村薫…アエラ今週号から。
政治家の無能がこれほどこたえたことはない1ヵ月だった。それでも、何とかなっていた安穏な時代は、すでにない。
この春も関東以西では桜が咲いた。東日本大震災の被災地は少し時期が遅くなるが、それでも桜の木は間違いなく花芽を膨らませていよう。東京では、お偉い都知事が都民に花見自粛を呼びかけ、上野公園などには早速その旨の看板が立ったとか。お上の一声で花見まで中止になる首都の心象の寒々しさには、それはそれでこころが痛む思いがする。電力不足で暗い街をものともしないのは、権力欲に憑かれたというわけでもあるまいに、我も我もと都知事選の立候補者に名を連ねる勘違い有名人たちだけか。
まったく、大震災で見渡す限り廃墟となった国土を眺め、家も財産も仕事も失って避難所に並ぶ被災者を眺めるにつけ、あらためて政治家の無能がこれはどこたえたことはない一ヵ月だった。
意味不明の防災服を着て永田町をうろうろするだけの国会議員たちのせいで、どれだけ多くの被災地で、飲み水さえ届かない日が続いたことか。
これは道路が不通だったせいではない。
津波発生直後に自衛隊のヘリコプターが道路状況を確認したのであればなおさら、国の防災の責任者の決断一つで、真っ先に水を空から届けることぐらい出来たはずなのだ。
多くの被災地では自治体の職員も被災者となった結果、避難所の全容がいまなお調査しきれないでいるのだが、これも国が自衛隊や警察・消防の人員を使って、自治体の代わりに詳細を把握し、初動の救援に活かすべきではなかったのか。
これだけ広域にわたる被害にもかかわらず、結局自治体が細々と動きだすまで被災者は水も食料もないまま放置され、医師や医薬品の確保も大幅に遅れた。
この一ヵ月、政府はいったいいくつの「会議」を設置したのか知らないが、災害救援や復興について何も知識のない政治家たちがいくつ首を並べても、何の役にも立たない。
政治家の仕事は、専門家や役人たちに権限を与えて動かし、自分は最終的な責任を取ることだけなのに、政治主導をはき違えた政治家たちが、今日も永田町で延々被災地支援を論じている。
彼らの頭にあるのは、結局コンクリートによる復興の青写真だけなのだろう。原発がもたらすメリット・デメリットをいま一度真剣に考えてみるだけの真面目さもなければ、電力不足がもたらす経済縮小への危機感もないのだろう。
この大災害に際して、被災者の生活一つ満足に守れなかった政治家たちに、国民の生命財産を守る意思と力があると思う国民はいない。
それでも何とかなっていた安穏な時代は、すでにない。
…中略。そんな政権に、失われた被災地の生活と経済を中長期的に建て直すことなど出来るはずもない。
粛々と停電に耐える前に、日本人は本気で怒るときである。
同様の怒りに依る文字拡大、及び黒字化は芥川。