続き…「週刊朝日」4月22日号から。

満員の中型バスの窓際に座った作業員たちの表情は防護マスクに遮られて見えない。だが、皆一様にうっむき、目を閉じているように見えた。疲れがたまっているのだろう。
 
ほどなくして、福島第一原発の正門に着いた。精密分析装置を載せた東京消防庁の車両が横付けされ、入り□では2人の守衛が訪れる車両を1台ずつチェックしていた。成田空港に入るときの手荷物検査より緩い。仮に、強行突破する気になればできそうな気配だ。
 
不審者が第二原発のゲートを突破して捕まったとのニュースを前日の31日に聞いていた。
 
正門ゲート近くで場所を変えながら放射線量を計測してみた。画面上にオーバーロードと表示され、鳴り響く警報音と同時に数値はみるみる上昇していった。
500、600、700…と上がり続ける。2分ほど歩くと、木が生い茂っている場所にでた。ここで、手持ちの線量計は最高値を示した。
 
毎時1015マイクロシーベルト(約1ミリシーベルト)。
1時間この場所に居続けたら、一般の人が年間に浴びる人工放射線量の限度値になる。
急性被曝の場合、リンパ球が減少するなど被曝の症状が見られ始めるのは放射線量が毎時500ミリシーベルトを超えた時点といわれる。
 
線量計を借りた、米ミリオンテクノロジーズの日本代理店、テクノヒルの鈴木一行社長は、こう言った。
「この測定器は毎時100マイクロシーベルトまで誤差5%の範囲だが、それを超える放射線が測定されると、正しい数値なのかどうかはわからない」
 
今回の測定値1015マイクロシーベルトは、そのまま信頼できるか疑問だとはいえ、同じ時刻に東京電力が発表した正門前の放射線量「142」の約7倍だ。
東電の情報は正確なのだろうか。
 
線量計の数値を見る限り、第一原発から高いレベルの放射線が漏れ出ているということは間違いない。いずれにせよ、のんびりと取材していたら自分の身が危ない。足を速めた。
 
第一原発西門の近くに民家が一軒あった。庭先をのぞくと、つながれている3匹の犬がいた。飼い主が避難してから何も口にしていないのだろう。持っていたおにぎりとドッグフードを与えると、うち2匹はほかの犬の首にかみついて相手を制しながら、エサを奪い合った。このままでは犬たちは餓死してしまう。すきを見てリードを外そうとしたが、気が立っているため、こちらに襲い掛かってくる。可哀想だが、リードを外すのはあきらめた。

「爆発したら逃げるけど」

原発付近に長くぃれば被曝線量が増える。30分ほどで、原発から移動し、南相馬市へ向かった。
 
日が落ちると、周囲は真っ暗になった。避難指示区域では浪江町など一部以外、街灯はついていない。パソコンを使うのに、明かりが
欲しかった。
 
午後9時ごろ、南相馬市の日本通運配送所に電気がついているのを見つけた。
光が届く範囲に車を止め、パソコンを取り出した。しばらくすると、20代に見える従業員の男性が近づいて
きて言った。
 
「あなた、ここで何してるんですか」

双葉町の人たちはいまこの看板をどんな思いで眺めるのか(上)/牛舎横のビニールハウスに牛が集団でいた(同2.8キロ=下)

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