3・11 新たな文明作れ 今朝の朝日新聞 13面 元首相 細川護煕さん
日本リセットし先端的モデルに
I
ー大地震、大津波、そして原発事故に何を思いましたか。
「
東北大などで教鞭をとっだジェームズ・カーカップという英国の詩人・思想家が40年前、日本についてこう述べています。『経済の破綻、破滅的な地震が、日本にかつてなかったような深刻な試練をもたらすだろう』 『だれもかれも、ゼロから再出発するのでなければ日本は精神的にも、文化的にも立ち直ることができないだろう』と」
「詩人の直感ですが、今日の事態をよく予見しているのに驚かされます。単なる復旧・復興ではなく日本をリセットして再生するという覚悟でないと立ち直れないでしょう」
-原発事故は、私たちの繁栄が拠って立ってきたものが脆弱だったことを示しています。
「原発は安全だと言われて、それを信じ込んでしまっだのが愚かだった。チリ地震で実際にあれだけの被害があっだのに、今回の津波は想定外だったなどと寝言のようなことを言っている。これは人災ではなく、ある意味で、犯罪だと言ってもいい」
「東北に限らず、日本中どこでも中央集権的なインフラに頼ってきた。そういう脆弱性に正面から向き合おうとしてこなかった。それも人災だったという深刻な反省が必要ではないか」
―復興には政治の構想力が必要ですね。
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「世界に向けて、東北を先端的なモデルとしてデザインしていかなければ。関東、阪神淡路の両大震災との大きな違いは、あれだけ広大な地域が塩害や放射能にやられて数十年は農業も漁業もできない可能性があるということです。東北は親潮と黒潮が出合うところ。豊富な水にも恵まれている。縄文時代から丘陵地帯に人が住み、柳田国男は『日本の原風景』と言った。21世紀を飛び越えた22世紀の東北創り、新しい日本の文明創りといった大風呂敷を広げなくてはいけない。堤防をより高くするとか、そういう話でとどめてはいけない」
―菅直人首相の危機管理を見て、どんな印象を持ちますか。
「菅さんも大変だろうが、人の動かし方がどうなのかなと思う。対策会議や対策本部をいくつもつくるより、首相官邸にいる事務の官房副長官を中心に各省の精鋭でことに当たるという、本来のやり方でなぜできないのか。組織というものは、常にシンプルが良い」
「民主党政権では『政治主導』を振りかざすのが気になります。私は『政治主導』なんて言ったことはありませんが、政治が主導するのは当たり前、言わずもがなのことです。政治家が大きな方向性を示して、あとは官僚にどれだけやる気になってもらうかということです」
「首相はオーケストラの指揮者なのに、だれもそちらを見ていないというのはまずい。首相がどっしり落ち着いていないと国民も安心感を持てない。中国の『詩経』に『われ明徳を懐(おも)う 声と色とを大にせず』とあります。要するに問われているのはパフォーマンスなどではなく、リーダー自身だということです」
ー指導者が何を打ち出すかが大事ということですが、そういえば、細川政権では「質実国家」という考え方を示しました。経済成長をめざすだけでなく、質素で身の丈に合った生活をめざそうというものでした。
「江戸時代でも戦後でも思い起こして、今こそ質素な暮らしに戻ることを考えるべきでは。コンビニは24時間営業している。テレビも夜通し、やっている。そんなことは、やはりおかしい。無用のぜいたくと浪費を憎む精神を日本人が再び自覚して涵(かん)養していくならばヽ日本は欧米が刮(かつ)目する文明国になるでしょう。それが質実国家だと思う。ある意味で、いい機会だと思います。バブルとか経済成長とかいう中で、みんな身の丈にあった暮らし方を忘れてきましたから」
…中略。