想定読者という幻想—誰もいなかったという現実—

朝日新聞の内部記事を引用し、メディアが想定していた読者像と現実の世論との乖離を考察する章。記者自身の言葉を通じて、戦後的価値観と読者の変化を浮き彫りにする。

2015-12-28
私が想定していた読者像は、自分たちに都合のいい甘いものだった。
以下は前章の続きである。
このくだりを読んで思い出す記事がある。
朝日新聞の月刊誌『ジャーナリズム』(一二年七月号)掲載の「『世の中が見えていたのは橋下氏』朝日新聞大阪社会部デスクの嘆き」という記事だ。
公立校の式典での君が代斉唱を条例で定める法案に対し、〈条例は朝日新聞が守り育ててきた戦後民主主義に対する正面からの挑戦状である〉と鼻息荒く、記者は街頭での意識調査に乗り出した。
〈結果は思ってもみないものだった。30人中26人が「君が代条例に賛成」。当たり前のルールを守れない人が先生をしていること自体おかしいという。ショックだった。正直、6~7割が「反対」と答えると思っていた。良心的な日本人にとって、国内外に大きな犠牲をもたらした戦争の記憶とつながる国旗・国歌の強制は根源的に受け入れられないものと信じていた。その人たちこそ朝日新聞の読者だと思っていた。だがそんな人たちは、もはや1割しかいないのだ。良心的な世論をリードしているつもりが、振り返ってみたら誰もいなかったのである。私が想定していた読者像は、自分たちに都合のいい甘いものだった〉
この記事を書いた大阪社会部デスクの稲垣えみ子記者は編集委員を務めたあと、2015年9月に朝日新聞を早期退職している。

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