急逝したホイットニー・ヒューストンが歌手として、黒人女性として遺したもの

2.29号、ニューズウィークから。

…前略（前文大半略）

ビヨンセもかなわない

前代未聞の反響だが、それはヒューストン自身が前代未聞の存在だったからでもある。
彼女は素晴らしい歌手だっただけでなく、美や名声に対する考え方を世界規模で変えた。

世間に登場すると同時に、ヒューストンはいくつもの業界の構図を塗り替えた。

81年、初のアフリカ系アメリカ人モデルとしてセブンティーン誌の表紙を飾り、注目の的に。

91年、NFL(全米プロフットボールリーグ)の優勝決定戦スーパーボウルで国歌をソウルフルに歌い上げたときは、世界中の視聴者がその威厳ある物腰に驚嘆した。

アフリカ系アメリカ人女優が役に恵まれなかった時代に、白人の人気俳優ケビン・コスナーを相手に映画『ボディガード』で主演も務めた。「映画会社はホイットニーのために役柄を考えた」と、映画史研究家のドナルドーボーグルは言う。「当時も今も、黒人女優にはあり得ないことだ。ホイットニーには誰もが求める何かがあることを、彼らは分かっていた」

もちろんエンターテインメント業界に足跡を残した黒人女性はほかにもいるが、ヒューストンとはどこか違う。

ハルーベリーは黒人女性として初めてアカデミー賞主演女優賞を受賞したが、ヒューストンほど稼げる女優ではない。後継者と言われる歌手のビヨンセも、ヒューストンほど観客を集められない。

ヒューストンはいつでも、どこでもその場にふさわしくなれた。

普通の女の子そのものかと思えば、イブニングドレス姿で英エリザベス女王さえも魅了した。

「彼女は普通であると同時に特別だった」と、ヒューストン一家と親しい牧師のアルーシヤ・プトンは言う。「美しいけれど傲慢ではなかった」

その夜、ビバリー・ヒルトン・ホテルではグラミー賞開催前夜のイベントが行われ、出席した俳優トム・ハンクスら多くのスターが亡き歌姫に敬意を表した。

抜きんでた才能を持った女性、膨大なアルバム売り上げ記録もかすませるほど波乱に満ちた私生活を送った女性に。

ホテルの外では、彼女に最後のお別れを言おうと数百人のファンが列をつくっていた。