朝日や毎日では決して読めない現実。米中対峙と日本防衛の最前線。

ドナルド・トランプの政策顧問であるピーター・ナヴァロの著書『米中もし戦わば』を軸に、中国の海洋膨張、尖閣危機、第一列島線、オフショア・コントロール、日米同盟と自衛隊の実像を解説。主流紙の読者が触れにくい安全保障の核心を示す。

朝日や毎日などの購読者は決して読むことが出来ない厳然たる事実であると言っても過言ではない。
2016-11-28
以下は先ほど、東洋経済オンラインで発信された記事である。
朝日や毎日などの購読者は決して読むことが出来ない厳然たる事実であると言っても過言ではない。
 「日本は米軍の駐留経費を全額負担せよ。
さもなければ、米軍の撤退もいとわない」との発言を繰り返してきたドナルド・トランプ氏。
そんなトランプ氏の政策顧問(Policy Advisor)であるカルフォルニア大学教授の書いた『米中もし戦わば』(原書名:Crouching Tiger)が日本の防衛省、自衛隊幹部の間で話題になっている。
 著者であるピーター・ナヴァロ氏は、トランプ次期大統領の政権移行チームでも引き続き政策顧問を務め、経済、貿易、そしてアジア政策を担当している。
元々の専門は経済学で、「中国の不公平貿易が、アメリカ経済とその製造業にどんなダメージを与えているか」を研究していた。
その過程で、そうして得た経済力をもとに、中国が軍事力を増強し、南シナ海や東シナ海で様々な軍事行動を起こしていることに着目。
それがこの本の出発点となった。
 今年3月、日本の防衛省防衛研究所も中国の海洋進出を分析した「中国安全保障レポート」を出している。
その執筆責任者である主任研究官の飯田将史氏が執筆した解説全文を掲載する。
かつて北海道を中心に展開していた自衛隊
 日本の自衛隊がソ連軍による着上陸を念頭に置いて、北海道を中心にして展開していたのは、今は昔の話である。
 現在、陸・海・空の各自衛隊は、東アジアの海洋でプレゼンスを強化している中国軍をにらみつつ、南西地域に重点を置いた展開を推進している。
 本書は、近年の中国の海洋進出にともなって、変化する太平洋地域の戦力バランスを分析しながら、「米中戦争はあるか」「あるとすれば、どのように防ぐことができるのか」を、一般読者に向けてわかりやすく論じた優れた地政学の本である。
 本書ではもちろん尖閣諸島をめぐる日中のつばぜり合いや日本に展開する米軍の基地(佐世保、横須賀、横田、嘉手納など)の脆弱性などが、米国の立場から書かれているが、日本の自衛隊がどのような戦略のもとに、中国の海洋膨張政策に対峙しているかにはあまり紙幅が割かれていない。
本稿では、「解説」の形をとりながら、日本から見た防衛戦略について記したいと思う。
 尖閣諸島周辺の日本の領海に、中国の政府公船が初めて姿を現したのは、2008年12月のことである。
ほぼ同じころに、中国が島嶼(とうしょ)の領有権や海洋権益をめぐってフィリピンやベトナムなどと争っている南シナ海でも中国公船の活動が活発化していることから、この時期から中国の海洋膨張政策が、さまざまな衝突をうみながら、国際社会に立ちあらわれたということがいえるだろう。
 尖閣諸島周辺に莫大な石油が埋蔵されている可能性を指摘する調査結果が、1968年に発表された。
急速な成長の結果として、中国経済は、中東やアフリカから輸入される石油への依存を強めており、その輸送には、米国の制海権下にあるマラッカ海峡をとおらねばならない。
この「マラッカ・ジレンマ」を緩和することも、中国が尖閣と東シナ海にまたがる海底に存在している石油の確保を目指す、理由の一つになっている。
尖閣の領有を実現するために
 その尖閣の領有を実現するために、本書にもあるようにまずは地図を書き換え、漁船を送り込み、サラミをスライスするように徐々に支配を拡大していくというのが中国の戦略である。
 中国は、1996年の台湾における総統選挙に際して、中国が独立派と見なしている李登輝に投票しないようメッセージを送るために、台湾の近海に弾道ミサイルを撃ち込む演習を行った。
これに対して、米国は空母インディペンデンスと空母ニミッツを中心とするふたつの艦隊を派遣し、中国は矛を収めざるをえなかった。
 この時の蹉跌が、中国に、アメリカの空母打撃群に対抗する対艦弾道ミサイルなどの「非対称兵器」の開発を促したという本書の見方は的を射たものである。
 ハッキングによって先進諸国から軍事技術の主要部分を盗み、そのコピーによって高性能な国産兵器をつくりあげる。
黄海、東シナ海、尖閣諸島、南シナ海を内側に含む第一列島線への進出を、本書に書かれてあるように、移動式で精密攻撃が可能な弾道・巡航ミサイル、潜水艦などの強化によってなしとげつつある中国に対して、自衛隊はどのような対応をとってきているのだろうか?
 冒頭で書いたように、もともと自衛隊はソ連による侵攻を念頭に置いていた。
しかし、冷戦の崩壊と、経済成長にともなう中国の海洋進出が顕著になった2000年代以降、自衛隊の態勢は北から南へと重点をシフトしてきている。
 福岡の築城基地に所属していた主力戦闘機F-15、約20機からなる飛行隊を沖縄に移転したのはそのひとつである。
これは、東シナ海上空における中国軍機の活動が活発化していることに伴って、南西空域におけるスクランブル(緊急発進)の回数増大に対応するためである。
また、陸上自衛隊は与那国島に沿岸監視部隊を設立しており、今後は南西諸島への地対艦ミサイル部隊の配置が検討されている。
佐世保の西方普通科連隊を中心とした水陸両用部隊の整備も進んでおり、陸自は離島奪回能力を向上させつつある。
 海上自衛隊は、保有する潜水艦を16隻から22隻へと増加させつつある。
より多くの潜水艦を南西海域で運用することにより、中国の潜水艦や水上艦艇などに関する情報収集や偵察監視能力が向上することが期待される。
また有事においては、南西海域での海上優勢を確保するうえで、これらの潜水艦が重要な役割を担うことになろう。
海上自衛隊は、高性能のレーダーを装備し、多数の敵戦闘機や対艦ミサイルなどに同時に対応できる高い防空能力を有しているイージス艦の改修も進めている。
特に弾道ミサイル防衛能力の強化が図られており、日本本土に対する弾道ミサイル攻撃への対処能力の向上につながるだろう。
 拡張する中国に対して、米国は、アジア太平洋地域における同盟国との防衛協力を強化している。
その結果、日米の防衛協力はこの数年で顕著に進展している。
たとえば、東京都の府中にあった航空自衛隊の航空総隊司令部を、在日米空軍の司令部がある横田に、2012年に移転したのもそのひとつだ。
陸上自衛隊で有事における初動対処を担うことになる中央即応集団も、その司令部を、在日米陸軍司令部がある座間キャンプへ移転した。
米軍と自衛隊が、主要な部隊の司令部を同じ場所に置くことで、作戦時における相互の連携強化が目指されている。
 本書は、米軍が日本や韓国などアジア地域で運用する基地が固定されているために、中国のミサイル攻撃に脆弱である旨を指摘している。
これは鋭い指摘で、PAC3などの地対空ミサイルを配備し、迎撃しても、異なる方向から多数のミサイルが飛来した場合、そのすべてを打ち落とすことは難しい。
したがって、そうしたミサイルが着弾しても基地が稼働できるよう、主要な施設や装備を非常に厚いコンクリートで保護することや、破壊された滑走路などの施設を早急に復旧させる能力の向上といった、「抗たん化」の推進が必要になっている。
日本にとっては死活問題のオフショア・コントロール
 本書の中ではもうひとつの戦略思想の転換が提示されている。
すなわち空母主体の現在の米海軍の態勢を改め、潜水艦を主体にし、第一列島線の海峡(チョークポイント)で中国を封鎖するという「オフショア・コントロール」の考えである。
 この潜水艦への戦略移行は、たしかにアメリカにとっては安上がりな解決かもしれないが、第一列島線上に位置する日本にとっては死活問題になる。
これは第一列島線で、石油などの輸入を阻止することで、中国を干上がらせるという発想だが、そうした事態まで中国を追い込むには相当の時間がかかる。
その間に中国は、封鎖の突破を目指して、本土で無傷のまま温存されているミサイルなどの兵器を用いて、第一列島線に存在する敵の軍事基地や政経中枢への攻撃を行うことが想定される。
 また、中国領内に進入できる長距離爆撃機を米側が持つことが、事態の安定につながるという本書の主張の妥当性はどうだろうか?
 中国の内陸部にある軍事的なアセットを着実に破壊できる能力を持つことによって、中国による挑発的な行動、挑戦的な行動を抑え込む。
それが「エアシーバトル」の抑止の考え方だ。
そのためには長距離を高速で飛行し、敵のレーダーから探知されにくいステルス性能を備え、中国の内陸部も攻撃できる爆撃機を持つというのは合理的な結論である。
実際、ステルス性の高い長距離爆撃機をアメリカは保有しており、それが中国本土をたたくことができるという事実が、抑止力の一部となっているのである。
 それでは日本も持てばいいではないか、と読者は思うかもしれない。
しかし、日本がこうした長距離爆撃機を持つことは想定できない。
なぜならば、憲法9条の下で、性能上もっぱら他国の国土を壊滅的に破壊するような攻撃的兵器を日本は持てないからだ。
自衛隊は「専守防衛」の思想のもと、攻撃されないための防衛的な兵器のみを所有しているということになる。
 こう考えていくと、米軍のアジア太平洋地域におけるプレゼンスは、日本にとっては是が非でも必要な傘ということになる。
戦後初めての試練のなかにある
 第二次世界大戦では、アジアの覇権国になろうとした日本を、アメリカは石油の禁輸などの手段をつかって抑止しようとしたが、結局は失敗し、戦争になった。
その後のアジアで、強力な海軍力をもった国は、中国が2000年代に南シナ海や東シナ海に進出するようになるまでは、出現しなかった。
 その意味で、現在アジア地域は、戦後初めてアメリカ以外の国が覇権国たるべく拡張してきたその試練をうけている。
 本書が記す、フィリピンが領有権を主張しているスカボロー礁を失った経緯に愕然としたかたもいるのではないか。
2012年4月に「中国漁船団」の侵入によって始まったこの奪取劇。
中国は、フィリピン製品の輸入制限や、フィリピンへの事実上の渡航制限によって中国経済に依存していたフィリピンを追い込む。
アメリカの仲介で、2012年6月に両国は当該地域から撤退することが決まったにもかかわらず、中国はそのまま居座り続け、礁のコントロールを握ることになった。
 本書『米中もし戦わば』は、米国、中国のみならず、ベトナム、フィリピン、台湾、韓国、北朝鮮、そして日本といった国々のパワーバランスのなか、中国が何を狙い、何が同盟国の側に足りないのかを、わかりやすく書いている。
 沖縄の基地問題や集団的自衛権の問題も、こうした大きなコンテクストのなかで考えていくと、その糸口が見つかるかもしれない。
 アジア地域へのアメリカ軍のプレゼンスを軽視する候補が大統領になった今こそ、日本人に読まれる書というべきだろう。

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