作られた記憶が完成させる全体主義

2019年11月2日発信。
韓国弁護士・金基洙氏の論考をもとに、韓国社会における反日種族主義、主体思想、曹国守護デモ、学校教育における虚偽の歴史認識、そして「民族的史学」の正体を論じる。
特定の歴史観を国民に注入し、別の記憶や反論を許さない社会こそが全体主義であると指摘し、『反日種族主義』が韓国社会に自由の重要性を気づかせる契機となっていることを紹介する。

2019-11-02
民族的史学とは実は「良心的日本人」といわれる日本の左派学者から学び、あるいは無批判に輸人したもので、それに民族的史学という包装紙を被せているもの。
以下は前章の続きである。
自発的な「曹国守れ」デモ。
韓国でベストセラーとなっている『反日種族主義』(李栄薫編)を読んで、韓国を支配している反日種族主義というのは「主体思想」と通じるところがあるのではないかと、私は思いました。
主体思想は民族を、特に血統を強調しています。
その中でも白頭山の血統(金日成一族)が大事だという純血主義。
そのような考え方と反日種族主義はまさに一体だと思います。
私はこの本の著者ではありませんから読者としての読後感を申し上げましたが、歴史観について例外を認めないということから始まって、それが法律さえ無視して法の上に特定の歴史観が君臨するところまで韓国は来ている、そのような状態はまさに独裁者が喜ぶことで、それが全体主義だということです。
記憶を注入された人たちは、その記憶を守るために、別の記憶を持っている人たちを攻撃します。
別の記憶を持っている人たちを権力が攻撃しなくても、記憶の注入にさえ成功すれば、注入された人たちが自分で他の考えを持つ人たちを攻撃してくれる、そこまで来ると全体主義が完成します。
特定の記憶を注入された人たちにとっては、別の記憶を持つ人たちの存在が自分の存在を否定する人に見えるので、国民同士で別の記憶を持つ人の排斥を始めるのです。
曹国氏は10月14日に法相を辞任しましたが、それまでは毎週土曜日に検察庁の前で「曹国(法相)を守れ」というデモと「曹国を逮捕せよ」というデモとが対峙していました。
韓国の保守派は「曹国擁護のデモは官製デモで動員されたものだ」と言っています。
しかし私はそうは思いません。
「曹国を守れ」と主張する人たちは、曹国が作った記憶に忠実であろうとしている人たちで、「曹国が否定されたら自分たちに注入された記憶が否定されてしまう」と危機感を持って自発的に集まってきた人たちであり、その意味でより危険なのです。
曹国が先頭に立って親日清算を叫んだわけで、「曹国を守れ」と言っている人たちにとっては、「親日は清算されねばならない」という作られた記憶の大きさに比べ、曹国の不正などは小さなことだと見えているのです。
「親日の清算」という彼らの信念が曹国が倒されると一緒に壊されてしまう、という自発的な危機感を持って彼らは集まっている。
曹国守護デモは、自分たちの記憶を守ろうとするデモなのです。
学校教育でもウソが横行。
歴史は多様な解釈が必要ですが歴史教育には、アメリカでも強調されている建国の歴史のような、事実に基づきつつ愛国心を育てる教育が必要だと私は思います。
しかし今、韓国では事実に基づかない、例えば「徴用工」が強制連行された奴隷労働だったという、批判を許さない、作られた虚偽が教えられ続けており、私はこれに強い危機感を覚えています。
北朝鮮の教科書を見ると、歴史教科書が全体主義実現の手段になるということがよく分かります。
それと同じことが韓国でも起きつつあります。
李宇衍博士の研究などによって、韓国で出回っている「徴用工」の写真は「偽物だ」と判明した後に、小学校六年生の教科書にその写真が掲載されました。
しかし我々が抗議したので、韓国の教育部が修正シールを配って、それを教科書の写真に貼らせました。
偽の写真を教科書に載せるのはまさにウソの記憶を注入する行為で、それに対してシールを貼らせた我々の行為は記憶の注入に抵抗するものでした。
私か高麗大学に在学中、法学部でしたが教養科目で歴史の講義がありました。
そこで教わったことは、実証的な歴史学イコール親日史学であってダメだ、民族的史学こそ真の歴史学だということで、教科書にもそう書いてありました。
しかし民族的史学とは実は「良心的日本人」といわれる日本の左派学者から学び、あるいは無批判に輸人したもので、それに民族的史学という包装紙を被せているものです。
それゆえ、民族的史学を主張している韓国の学者こそが親日だといえます。
その人たちが「親日派を処断せよ」と言っていますが、日本から理論を学んだ彼ら自身が親日派ではないのか、と思えてなりません。
このたび、『反日種族主義』という本が出たことによって、真の意味での日本の良心的な知識人や学者と、李栄薫教授のような韓国側の良識的学者とが交流する必要がある、と私は思っています。
『反日種族主義』が触媒となって、韓国人は全体主義の危険性に気づき、自由の大切さに目覚め始めています。
発売後3ヵ月で10万部超と、韓国で保守的な社会科学書としては異例のベストセラーになったこの本は、11月には文芸春秋から邦訳が出ると聞いています。
私の著書ではありませんが、皆さんぜひ買ってください。

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