「厚黒学」がビジネスの聖典となった中国――ウソだらけの社会から逃げ出せない人々

2020年2月16日発信。
黄文雄氏の著作をもとに、李宗吾の「厚黒学」がなぜ中国社会で高く評価され、近年ビジネスの聖典として再燃したのかを論じる。
孔子批判、五・四運動、「打倒孔家店」、そして「欲望最高、道徳最低」とされる中国社会の現実を通じて、ウソだらけの社会を変えるのではなく、その中で厚かましく腹黒く生き残るための処世術として「厚黒学」が受け入れられた背景を示す

2020-02-16
このウソだらけの社会をいかにして変えていくかと思う中国人は、すでにいなくなった。
中国から逃げ出せない人だけになったのだ。
以下は前章の続きである。
李の「厚黒学」についての評価はかなり高い。
たとえば、世界的に著名な中国文学の巨星、林語堂は、李宗吾こそ真の「聖人」と讃えた。
もう一人の著名な文化人、柏楊氏は林語堂と同様、学祖の李こそ孔子を上回る聖人と称賛する。
では、なぜ「厚黒学」が『論語』に代わって中国社会でブームになったのだろうか。
19世紀後半になると、中国の不幸の元凶は儒家思想にあることが徐々に文化人のあいだで知られるようになる。
実際、1905年には、清の政府により科挙制度まで廃止された。
民国の時代に入ってからも、「悪いのはすべて孔子のせい」という認識が広まっていく。
たとえば、1919年の五・四運動は「科学」「民主」をスローガンにした以外には、「打倒孔家店」が知識人のスローガンとして掲げられた。
「厚黒学」が高く評価され、静かなブームになったのは、こういう時代背景もあったのだろう。
では、なぜ近年になって、「厚黒学」ブーム、しかもビジネスの聖典として再燃したのだろうか。
中国人の「欲望最高、道徳最低」の現実については、民間学者だけでなく、国家指導者に至るまで語りはじめた。
「厚黒学」はただ反伝統・反文化の逆説ではない。
中国ではこの厚黒史観が広く認知されるようになった。
中国人がますます面の皮を厚くし、腹黒く進化していることも実証され、実感もされている。
このウソだらけの社会をいかにして変えていくかと思う中国人は、すでにいなくなった。
中国から逃げ出せない人だけになったのだ。
いかに、「詐欺師だけが本物」の社会で厚かましく、腹黒くという処世術で生き残ればいいのか。
「厚黒学」はまさしく処世の聖典としてブームとなったのである。

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