WHOを動かす中国外交と台湾排除――人民より国家体面を重んじる習近平体制

矢板明夫氏の論文をもとに、中国共産党が新型コロナウイルス対応でWHOに影響を及ぼし、台湾を国際的な感染症対策から排除しようとした実態を検証する。人民の命より国家体面と「一つの中国」を優先する習近平体制の本質を問う。

2020-03-02
WHOを動かす中国外交と台湾排除――人民より国家体面を重んじる習近平体制
以下は前章の続きである。
人民より国家の体面。
中国が急いで武漢を閉鎖した理由の一つは、世界保健機関、WHO対策だった。
一月二十二日から二十三日まで、WHOはジュネーブで緊急会合を開催し、新型コロナウイルスを議題にした。
だが、中国が武漢を封鎖したことで、WHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」、すなわちPHEICには当たらない、と結論づけてしまった。
その理由の一つは、中国が十分な対策を取っている、というものだった。
WHOの事務局長で、エチオピア出身のテドロス氏は、外相在職中から中国と親密で、「中国人民の老朋友」と呼ばれる人物である。
一月末に北京で習近平国家主席と会談した際も、彼は「中国人民は封じ込めに向けて厳しい闘いをしている。必ず勝利できると信じている」と評していた。
しかし、その後も感染は拡大の一途をたどった。
外国でも、ヒトからヒトへの感染が確認された。
WHOの決定に、各国から非難が殺到した。
一週間後の一月三十日、WHOは再び会議を開き、緊急事態と認定した。
だが、不満や批判は収まっていない。
また、政治力で国際組織を動かそうとする中国の強引な外交手法も、国際社会の顰蹙を買った。
感染症対策は、地域によって対応にムラや漏れがあれば、十分な効果を上げることはできない。
ところが中国は、人命より国家の体面を重視し、「一つの中国」にこだわっている。
災害を政治利用し、台湾を国際社会から排除しようと躍起になっているのである。
先に述べたWHOの緊急会合にも、台湾の代表だけは参加できなかった。
のちの会合では改善が図られたが、有効な対策を進めるうえで、大きな痛手となることは言うまでもない。
閉鎖された武漢市内には、約四百人の台湾人が滞在していた。
中国は、米国民、日本国民を救出するチャーター機には離着陸を認めた。
だが、台湾の要請には応じようとしなかった。
二月四日に、ようやく離着陸が認められた。
しかし、災害が発生し、一刻も早い人命の対応、人道上の対応が求められる場面でも、中国は台湾いじめに明け暮れたのである。
今、やらなければならないことは一体何なのか。
そうしたことへの理解が、中国の場合、ことごとく諸外国の感覚と食い違っている。
そのために、必要な手立てが講じられなかったのである。
中国の思惑は、国際社会から台湾の存在を消し去れば、台湾問題は中国の内政問題となり、外国から口出しをされることなく、統一が図れる、というものである。
実際、中国の台湾いじめによって、イタリアやベトナムなどの国が感染予防策の一環として中国直行便を停止した際、台湾便まで停止してしまう出来事が起きた。
カナダのトルドー首相は一月二十九日、「台湾がWHOの会議にオブザーバーとして参加することが、国際的な公衆衛生に最大限の利益をもたらす」と表明している。
安倍晋三首相も三十日の参議院予算委員会で、「政治的な立場で、この地域を排除するということを行うと、感染防止は難しい」と述べ、台湾のWHO参加の必要性に理解を示している。
最後に、今回の新型コロナウイルス対応が、習近平政権に何をもたらすかを述べておこう。
習政権はここ数年、米中貿易戦争、香港デモの長期化、国内経済の失速などで、内憂外患が続いている。
二〇〇三年のSARS問題、二〇〇八年の四川大地震など、大災害を共産党政権は経験してきた。
だが、今回の新型コロナウイルスの流行への対応で、中国全土は大混乱に陥った。
習政権の求心力の一層の低下は必至である。
建国以来、強権的な指導体制で国を支配し続けてきた共産党政権の「終わりの始まり」だ、という改革派知識人の声すら漏れてきている。
この矢板明夫氏の論文が明らかにしていることは、まことに重大である。
中国共産党にとって、感染症対策ですら、人命第一ではない。
国家の体面が第一であり、党の都合が第一であり、習近平の権威が第一なのである。
だから、情報は隠される。
だから、医師は黙らされる。
だから、武漢市民は置き去りにされる。
だから、台湾は排除される。
だから、WHOまでが中国の意向に引きずられる。
これほど明瞭に、中国共産党一党独裁体制の本質が露呈したことはない。
日本国民は、この事実を直視しなければならない。
中国が語る「友好」や「支援」という言葉に騙されてはならない。
彼らが本当に守ろうとしているのは、人民の命でも、国際社会の安全でもない。
守ろうとしているのは、中国共産党の面子であり、習近平体制の延命なのである。
こんな国に、お金のためになびく国際社会に対して、朝日新聞はお得意の「清貧の思想」を説教しなければならない。
朝日新聞は、一刻の猶予もなく、中国と、その追随国に対して、清貧の思想を説かなければならないのである。
この稿続く。

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