グローバリズムの破綻と公共的資本主義――佐伯啓思氏が示す、ポスト・コロナ社会の方向

佐伯啓思氏の論文を通じて、新型コロナウイルスの世界的流行が、冷戦後の過度なグローバリズムの矛盾を露呈させたことを検証する章。中国依存、金融不安定、格差拡大、EUの脆弱化、公共的社会基盤の弱体化を踏まえ、効率至上の競争資本主義から、安定重視の公共的資本主義への転換を問う。

2020-05-31
第四に、そのなかで、あろうことか共産党が支配する中国がグローバリズムの勝者となり、各国経済が中国依存になった。
以下は今日の産経新聞に、「公共的資本主義」へ転換を、と題して掲載された京都大学名誉教授・佐伯啓思氏の論文からである。
東京と大阪をビジネスで往復していた最後の頃、新幹線の車内のWedgeを読んでいた時、私は彼を初めて知った。
本物だなと思った。
当欄でも直ぐにご紹介した。
西部邁氏とは何ものかを初めて知った時も、当欄で直ぐに紹介した。
西部氏が存命中だった時、彼は西部氏の最高の理解者の一人としての立場にもいた。
二人そろってBSフジの番組に生出演していたのも視聴した。
____________________________________________________________________________
グローバリズムを批判してきた思想家で、京都大学名誉教授の佐伯啓思氏は、新型コロナウイルスの世界的流行と経済への影響を、過度なグローバリズムの結果とみなす。
そしてポスト・コロナの社会像を、グローバル競争ではなく、公共的な社会基盤を強靭化する方向に求める。
寄稿してもらった。
◇感染症は人類の歴史とともに古く、この100年をみても、われわれの文明は繰り返し感染症の脅威にさらされている。
そして今回の新型コロナのパンデミック、世界的大流行は、冷戦後のグローバリズムと切り離せない。
この感染症がこれほど急速に世界中に拡散し、また世界経済全体に大きな影響を与えたのは、グローバリズムの結果である。
と同時に、それはグローバリズムへの大きな打撃となった。
市場競争の皮肉。
冷戦後の世界は、モノのみならず、資本、情報、技術、人などのボーダーレスな移動を促進し、グローバルな市場競争によって経済成長を目指してきた。
新自由主義や市場中心主義が国家の役割の最小化を唱え、米国がこの政策の旗を掲げることで、冷戦後の世界における経済的覇権を確立しようとしたのである。
1990年代から始まる日本の構造改革路線も、その強い影響下にあった。
だが、皮肉なことに、過度なまでのグローバルな市場競争は、新自由主義や市場中心主義の想定とはまったく異なった結果をもたらした。
第一に、グローバルな金融経済はきわめて不安定化し、2008年のリーマン・ショックを引き起こした。
その結果、政府が強力な財政金融政策によって経済を支えるというケインズ主義への回帰が始まる。
第二に、グローバル競争は所得格差、資産格差を生み出し、国民経済に動揺を与える。
第三に、過度なまでのグローバル競争は、「国家の退場」どころか、国家による成長戦略や保護貿易等へと行き着いた。
トランプ米大統領に代表される自国中心主義である。
第四に、そのなかで、あろうことか共産党が支配する中国がグローバリズムの勝者となり、各国経済が中国依存になった。
第五に、地域的グローバリズムというべきEU、欧州連合の実験はほぼ失敗した。
第六に、過度な市場競争の結果、多くの国で、医療、福祉、教育、それに地域コミュニティなどの公共的社会基盤が弱体化した。
第七に、本来は公共的財産であるはずの情報・知識が市場で大きな利益を実現し、いわゆるGAFA、米IT大手4社問題を生み出した。
またSNSなどの情報によって、社会や政治が振り回されることともなった。
そして第八に、グローバリズムとイノベーションにもかかわらず、先進国はさして成長できないのである。
破綻した価値観。
すでに、グローバルな市場競争はもたないところまできていた。
そこへコロナ・ショックが生じたのである。
コロナ禍は、これらのグローバリズムのもたらした問題をさらに明るみに出し、もっと深刻な次元へと推し進めた。
一国中心主義はいっそう進み、米中対立は深刻となる。
民主主義国家も、国家や政府の権力を強化することになる。
EUはますます脆弱になり、人の移動、移民は経済の重荷になる。
SNS等の情報は、緊急事態のために政府による管理が強化される。
極端なまでの財政、金融政策や支援金のバラマキにもかかわらず、経済成長は期待できない。
これはグローバリズムへの挑戦ではなく、過度なグローバル競争の帰結である。
だから、グローバリズムの立て直しによる経済成長主義というような価値観は、もはや破綻している。
そのことを今回のコロナ禍が顕在化させたのだ。
いま、われわれは岐路に立っている。
一方では、このショックをしのいで、V字回復で再びグローバル競争に戻すべきという考えがある。
他方には、大きな社会転換の契機にすべきだという考えがある。
私は後者であるが、もしポスト・コロナの社会像があるとすれば、それは、医療、福祉、介護、教育、地域、防災、人の繋がりなどの「公共的な社会基盤」の強靭化を高めるものでなければならない。
それは、効率至上主義のグローバルな競争的資本主義というよりも、安定重視のナショナル、国民的な公共的資本主義というべきものであろう。
さえき・けいし。
東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得。
京都大学名誉教授、同大学こころの未来研究センター特任教授。
70歳。
文明論的に経済や保守を論じる。
『「保守」のゆくえ』『従属国家論』『経済学の犯罪』など著書多数。
サントリー学芸賞、正論大賞など受賞。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


上の計算式の答えを入力してください