幻に終わった「蓮舫東京都知事候補」――前川喜平氏の副知事構想、共産党との共闘、山本太郎氏をめぐる野党候補者選びの内幕
2020年東京都知事選挙を前に、立憲民主党は小池百合子知事への対抗馬として蓮舫氏の擁立を検討した。
月刊誌『WiLL』掲載の氷川貴之氏の論文によれば、蓮舫氏は前川喜平元文部科学事務次官の副知事就任と、山本太郎氏、宇都宮健児氏の支持を出馬条件として提示したという。
蓮舫氏擁立の断念から、山本太郎氏との交渉が行き詰まるまでの野党候補者選びの内幕を記録する。
2020-07-10
幻に終わった「蓮舫東京都知事候補」――前川喜平氏の副知事構想、共産党との共闘、山本太郎氏をめぐる野党候補者選びの内幕
以下は前章の続きである。
本稿は、「安住閣下の舌は何枚?」と題して月刊誌『WiLL』に掲載された、ジャーナリスト氷川貴之氏の論文からである。
2020年6月17日に通常国会が閉会すると、永田町の関心は、7月5日に投開票される東京都知事選挙へ移った。
再選を目指す小池百合子東京都知事に対し、立憲民主党は独自候補、あるいは野党統一候補を擁立しようとしていた。
その背景には、東京都政をめぐる政策上の対立だけでなく、2017年の衆議院選挙を前に起きた「希望の党」をめぐる政界再編への強い遺恨が存在したと、氷川氏は論じている。
当時、民進党所属議員の希望の党への合流をめぐり、小池氏は候補者を選別する方針を示した。
小池氏による「排除」という言葉を契機として、枝野幸男氏は立憲民主党を結成した。
したがって2020年東京都知事選挙は、立憲民主党にとって、単なる首都の行政責任者を選ぶ選挙ではなかった。
小池氏を東京都知事の座から引きずり下ろし、立憲民主党と共産党を中心とする野党共闘の力を示すための、重要な政治決戦として位置づけられていたのである。
当初、対抗馬として最も有力視されたのが、立憲民主党副代表だった蓮舫氏である。
蓮舫氏は、参議院東京選挙区において100万票を超える個人票を獲得した実績を持っていた。
その知名度と集票力を考えれば、小池氏に対抗できる数少ない候補者の一人だと判断されたことは理解できる。
氷川氏の記事によれば、蓮舫氏は一時、東京都知事選挙への出馬を決意し、出馬に当たって二つの条件を提示したという。
第一は、前川喜平元文部科学事務次官が副知事への就任を引き受けること。
第二は、れいわ新選組代表の山本太郎氏と、元日本弁護士連合会会長の宇都宮健児氏が蓮舫氏を支持することだった。
これらが事実であるならば、蓮舫氏は、自らの知名度だけで選挙に臨もうとしたのではない。
立憲民主党、共産党、れいわ新選組、宇都宮氏を支持する左派・革新系の有権者を一つにまとめ、小池氏に対抗する巨大な選挙連合を構築しようとしていたことになる。
しかし、新型コロナウイルスへの対応を通じて小池氏のメディア露出が急増すると、小池氏の支持率も上昇した。
立憲民主党側が実施したとされる情勢調査では、蓮舫氏を擁立しても小池氏に勝てないとの結果が出たという。
党副代表であり、全国的な知名度を持つ蓮舫氏を落選させれば、立憲民主党が受ける政治的な打撃は計り知れない。
その結果、蓮舫氏擁立構想は幻に終わった。
その後、立憲民主党東京都連会長だった長妻昭氏は、前川喜平氏や東京新聞記者の望月衣塑子氏の擁立も模索したとされる。
しかし、いずれも実現しなかった。
党内から候補者を擁立する道を事実上断念した長妻氏は、枝野幸男代表と福山哲郎幹事長に、宇都宮健児氏を支持するか、山本太郎氏を支持するかという二つの選択肢を示した。
氷川氏の記事によれば、枝野氏と福山氏は、山本太郎氏を野党統一候補として擁立する方向を選んだ。
元日弁連会長であり、「日本のサンダース」とも呼ばれた宇都宮氏については、左派色が強すぎると判断したとされる。
そこから長妻氏は、山本氏を野党統一候補として擁立するための説得工作に入った。
山本氏側との交渉窓口を務めた人物として、氷川氏は、政治活動家の斎藤まさし氏の名前を挙げている。
また、国民民主党の小沢一郎氏も、山本氏の説得に動いたという。
しかし山本氏側は、れいわ新選組公認候補であれば出馬を検討する、あるいは各党が消費税率5%への引き下げを受け入れるならば無所属での出馬も考える、という条件を提示したとされる。
れいわ新選組公認では、他党が参加する野党統一候補という形式にはなりにくい。
一方、立憲民主党側には、消費税率の5%への引き下げを受け入れる意思がなかった。
そのため交渉は行き詰まり、野党統一候補の実現は困難になっていった。
以下は、氷川貴之氏の記事の該当部分である。
幻の「蓮舫都知事候補」
通常国会が閉会し、永田町の最大の関心は、7月5日投開票の東京都知事選挙に移った。
再選を目指す小池百合子東京都知事に対し、立憲民主党の枝野幸男氏は憎悪をたぎらせてきた。
3年前の衆議院選挙における「希望の党騒動」で、自らを排除した小池氏を何としてでも引きずり下ろしたい。
立憲民主党は、早々に小池氏への対抗馬擁立を決めたが、そこからは迷走に次ぐ迷走を重ねる。
まず白羽の矢が立ったのが、立憲民主党副代表の蓮舫氏だった。
前回の参議院選挙東京選挙区で110万票を超える票を獲得した蓮舫氏ならば、小池氏にも勝てるという計算だった。
4月には、蓮舫氏と共産党の小池晃書記局長が密かに会談した。
小池書記局長は、「蓮舫さんなら勝てる。ぜひ出てほしい」と頭を下げたという。
立憲民主党としては、来る衆議院総選挙に向けて、この東京都知事選挙で共産党との共闘関係を強固にしたいという思惑もあった。
その意味で、共産党も支持する蓮舫氏は、格好の候補だった。
その時に蓮舫氏が提示した条件は、次の二つだった。
第一は、前川喜平元文部科学事務次官が副知事への就任を引き受けること。
第二は、れいわ新選組代表の山本太郎氏と、元日本弁護士連合会会長の宇都宮健児氏が、蓮舫氏を支持すること。
蓮舫氏も、東京都知事選挙への挑戦を一時は決意したのである。
しかし、直後に事態は一変する。
東京都を含む全国に緊急事態宣言が出されると、小池氏のメディア露出が急増し、支持率も上昇した。
この時点で行った情勢調査で、立憲民主党側は、「蓮舫氏でも小池氏には勝てない」との結果に愕然とした。
党幹部である蓮舫氏を落選させれば、その政治的な打撃は計り知れない。
蓮舫氏擁立は、幻に終わるのだった。
立憲民主党の選挙対策委員長で、東京都連会長だった長妻昭氏は、前川喜平氏や東京新聞記者の望月衣塑子氏の擁立も模索したが、いずれも実現しなかった。
完全に手詰まりとなった長妻氏は、5月11日、立憲民主党代表の枝野幸男氏と幹事長の福山哲郎氏に対して、二つの選択肢を示した。
「宇都宮健児さんに乗るか、山本太郎さんに乗るか、どちらがいいでしょうか」
すでに立憲民主党内部からの候補者擁立を諦めていた長妻氏が示した選択肢に対し、枝野氏と福山氏は、「山本で行こう」と決断した。
元日弁連会長で、「日本のサンダース」とも称された宇都宮氏については、枝野氏と福山氏にとっても、「左翼の色が濃すぎる」という判断だったとされる。
そこから長妻氏は、野党統一候補として、れいわ新選組代表の山本太郎氏を担ぎ出そうと説得工作に入った。
山本氏側との交渉窓口に立ったのは、左派系の政治活動家で、菅直人元首相の盟友ともいわれる斎藤まさし氏だった。
同時に、国民民主党の小沢一郎氏も山本氏の説得に乗り出した。
しかし山本氏側は、「れいわ新選組公認であれば出馬を考える」「消費税率5%を各党が受け入れるならば、無所属でもよい」などの条件を提示し続けた。
れいわ新選組公認では、野党共闘候補とはなりにくい。
一方、立憲民主党側は、消費税減税を受け入れることができなかった。
結局、交渉は行き詰まりを見せた。
この一連の経緯が示しているのは、立憲民主党が東京都の将来を担う最適な人物を探していたというより、小池百合子氏を倒すことと、次の衆議院選挙に向けた野党共闘を優先して候補者を選んでいたのではないかということである。
蓮舫氏、前川喜平氏、望月衣塑子氏、宇都宮健児氏、山本太郎氏。
候補者として次々に名前が挙がった人物の政治的立場や主張には、大きな違いがある。
それにもかかわらず、共通していたのは、立憲民主党と共産党を中心とする反小池、反安倍の選挙体制に参加できるかどうかという点だった。
政策よりも選挙協力。
都政の将来像よりも、既存の知名度と集票力。
候補者本人の資質よりも、どの政党と団体の票をまとめられるか。
そのような候補者選びが続けば、有権者に見透かされるのは当然である。
東京都知事は、野党共闘を実験するための地位ではない。
約1400万人の都民の生命、生活、経済、教育、災害対策を担う、極めて重い行政責任を負う地位である。
小池氏を倒すことだけを出発点とし、候補者を次々に探し回る姿は、立憲民主党が東京都政をどう変えたいのかという、最も重要な政策構想を持っていなかったことを示していたのではないか。
蓮舫氏が出馬条件として、前川喜平氏の副知事就任と、山本太郎氏、宇都宮健児氏の支持を求めたという氷川氏の記事が事実ならば、それもまた、都政の政策内容より、左派・革新票の結集を優先した選挙構想だったことを示している。
野党が本当に都民の信頼を得ようとするならば、「誰なら小池氏を倒せるか」ではなく、「誰が東京都をより良く運営できるか」から候補者を選ばなければならない。
政治家を倒すことを目的とした選挙は、都民のための選挙ではないのである。
この稿続く。