中国海警局の軍事組織化と尖閣防衛の転換――海上保安庁では対処できない脅威に日本はいかに備えるべきか
中国海警局は、2018年に中国共産党中央軍事委員会の指揮下に置かれ、有事には人民解放軍と一体化する軍事組織へと変貌した。
尖閣諸島周辺では、中国公船の大型化、武装強化、長時間の領海侵入、日本漁船の追尾が進み、海上保安庁だけでは対応できない段階に入りつつあった。
山田吉彦・東海大学教授の論文を通じ、中国のサラミ戦術と、日本の尖閣防衛体制が直面する根本的な問題を記録する。
2020-08-03
本稿は、月刊誌『正論』2020年9月号に「東シナ海は8月が危ない」と題して掲載された、山田吉彦・東海大学教授の論文からの引用である。
論文は、2010年9月の尖閣諸島沖中国漁船衝突事件を、中国による尖閣諸島への圧力が本格化した転換点として捉えている。
その後、中国は一度に軍事侵攻を行うのではなく、公船の常態的な航行、領海侵入時間の長期化、船体の大型化、武装強化、日本漁船への追尾などを積み重ね、日本の実効支配を徐々に切り崩す「サラミ戦術」を進めた。
さらに中国海警局は、警察機関から中国共産党中央軍事委員会の指揮下にある武装警察部隊へと再編され、有事には人民解放軍と一体的に行動する組織となった。
本稿は、尖閣諸島周辺における中国海警局の活動が、海上保安庁による警察活動だけで対応できる段階を超えつつあるという警告を記録するものである。
引用原文
2020-08-03
中国海警局は、組織内容を見ると、もはや、海上保安庁が対応するものではなく、海上自衛隊でなければ対処できない組織になった
以下は、東シナ海は8月が危ない、と題して、月刊誌正論今月号に掲載された東海大学教授山田吉彦の論文からである。
日本国民のみならず世界中の人たち、特に国連で生計を立てている人間達は必読である。
2010年9月7日、尖閣諸島魚釣島周辺海域において、領海警備中の海上保安庁巡視船に一隻の中国漁船が突人した。
この漁船は逃亡を企て、追跡した別の巡視船にも体当たりを仕掛けた。
事件後、中国は明確に尖閣諸島の領有権を主張するようになり、当時の民主党政権は、中国政府に振り回されることとなった。
思い起こせば、漁船の突撃が、中国による尖閣諸島戦争の宣戦布告であったのだ。
この事件において、目先の日中関係にとらわれた民主党政権が、逮捕した船長を処分保留で送還したことが、その後の日本の領土領海を脅かすことにつながった。
中国の海洋侵出は、用意周到である。
相手が気づかない小さな変化による既成事実を積み重ねる「サラミ戦術」により、支配領域を拡大してきた。
尖閣略奪胖画においても、徐々に警備船を巨大化し、武器を搭載するなど強化している。
そして、2020年、中国政府の尖閣諸島略奪計画は、新たなフェーズに入ったようだ。
5月には、日本の漁船を、軍艦並みの警備船で追いかけまわし海域から排除する行動にまで過激化している。
この事案の直後、中国外交部の趙立堅副報道局長は記者会見の場で、「日本の漁船は中国の領海で違法に操業していたため海域から出るよう求めた。日本の海上保安庁の違法な妨害にも断固として対応した」とし、尖閣諸島が中国の施政下にあると公言した。
中国警備船は、7月の段階では、3ヵ月以上連続で尖閣諸島周辺を徘徊している。
さらに1回の領海侵犯で滞留する時間が長くなっている。40時間近く連続で領海を侵犯しているのだ。
中国警備舳には、海上保安庁の警告、退去要誚など眼中にないのだ。
攻めまくられる日本政府は、ことあるごとに外務省から「遺憾」砲を発射し、在日中国大使館に抗議することで対処してきた。
遺憾の言葉に効果がないことなど分かっているはずだが、積極的に手を打つことを避けている。
唯一政府の選んだ対抗策は、海上保安庁に献身的な警備を命じることだった。
そして、海上保安庁は、2016年、沖縄地区を管轄する第11管区海上保安本部の石垣海上保安部に600人、巡視船12隻体制からなる尖閣領海警備専従部隊を配置し、総力をあげて同諸島の警備を推進してきた。
しかし、中国は日本の出方を見極めながら、日本を上回る警備体制と装備を整えている。
海保が1000トン型の巡視船四隻で対応しているのに対し、中国海警局は、5000トン型と3000トン型各一隻、1000トン型2隻の布陣が多く、勢力の差は歴然である。
今後、海保は6500トン型の巡視船を投入する予定であるが、中国は既に世界最大級12000トンの巡視船を2隻保有している。
中国海警局の1000トン以上の警備船の数は、日本の同クラスの巡視船の3倍であり、警備力の拡大、装備の強化では、中国に軍配が上がることだろう。
2013年、中国政府は、日本の海上保安庁に対抗すべく海上警備を任務に持つ五機関のうち、国家海洋局の海域管理機関「海監」、農業部の漁業取締機関「漁政」、公安部の警備機関「海警」、出入域管理機関「海関」の四機関を統合し、国家海洋局の下に「中国海警局」を創設した。
さらに、海洋侵出が進むにあたり、中国海警局を強靭な組織にするために、2018年、中国共産党中央軍事委員会の傘下に入れ、通称は中国海警局のままで「人民武装警察部隊海警総隊」となった。
純粋な警察機関から、軍事組織に組み入れられ、有事の際には人民解放軍と一体となる組織に変貌したのだ。
中国海警局は、組織内容を見ると、もはや、海上保安庁が対応するものではなく、海上自衛隊でなければ対処できない組織になった。
この稿続く。